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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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22.王子様登場


「上着、ありがとうございました。風が強くなってきたので、本来なら洗ってお返しするべきですが、着てください」


 もっとさっきの言葉の意味を詳しく訊きたかったけれど、たくさんの人たちが集まってきてそれどころじゃなくなる。

 だから、クライス王子がちゃんと魔法騎士の制服を着ていたほうがいいと思って、ひとまず上着を返した。


「――わかった」


 私が借りた上着を脱いで差し出すと、クライス王子はちらりと私の右肩を見てから受け取った。

 そこに穏やかな笑みを浮かべたエレシムさんがやってくる。


「お二人とも、ありがとうございました。また皆から改めて感謝の言葉があるとは思います。また、今はこの街本来の姿をご覧になってください」

「は、はい!」

「ああ、そうだな」


 たぶんきっと、エレシムさんはクライス王子の正体に気づいているけれど、王子様の意向を汲んで触れないことにしたらしい。

 ひょっとしてひょっとすると、私の右肩を見られたかもしれないけど、それについても何も言わない。

 とても優しくて思慮深い人なんだ。


 クラーケンの死体の周りには、街の人たちが集まってきていて、ジャックさんを中心に男性陣が解体作業を始めていた。

 みんな大きな死体に「どうすんだこれ?」「ずいぶん硬いな、くそっ」なんて文句のようなことを言っているけど、その顔は楽しそうで活気がある。

 これがエレシムさんの言う、本来の街の姿――港の姿なんだね。


 もう太陽は沈んでしまって、辺りは宵闇に包まれているから、松明で周囲を明るく照らす。

 光魔法を使おうかなと思ったけれど、これ以上は手を出さないほうがいい気がして、奥様方に話しかけた。


「クラーケンってどうやって料理するんですか?」

「料理? クラーケンを?」

「……しないんですか?」

「いえ、しないというか、ねえ?」

「え、ええ。今までクラーケンを捕獲したこともなかったから。食べられるのかしら?」


 がーん! クラーケン料理とかないの? 炎リザード特製レシピとかあったのに?

 どうやらこんなに暗くなっても解体を始めたのは、明日はどうやら朝から気温が上がるから。

 それは魔法天気予報じゃなくて、長年の勘なんだって。

 ということは、さっさと解体しておかないと、クラーケンの死骸が腐臭を発生させちゃうらしい。

 確かに、魚介類って腐るとヤバい臭いだよね。

 とはいえ、食べたい。イカ焼き食べたい!


「あの、イカは食べないんですか?」

「この辺りではあまりイカ漁はしないからねえ。でも、もちろん調理はできるわよ」

「ええ。たまに網に引っ掛かるからね」


 私の問いかけに、奥様方はちらちらとクライス王子に視線を向けながら答えてくれる。

 うんうん。気になるよね。王子様みたいだもん。――本物だけど。

 そのクライス王子はヤク爺さんとエレシムさんと何やら話をしている。

 私も気にならないわけではないけど、まずは目の前のイカ! ではなくて、クラーケン!


「では、あれも食べましょう!」

「え……」

「魔法で調べたところ、大きいだけのイカです! 毒もありませんし、構造も一緒なので硬いのは表面だけのはず。あと、気をつけるべきは口のところの鋭い牙? で怪我をしないようにするのと、イカ墨ですね」

「確かに、イカ墨は一度付着するとなかなか取れないものねえ」


 奥様方は私の訴えにちょっと引きぎみではあったけれど、理解を示してくれた。

 すると、ヤク爺さんの奥様が楽しそうに笑う。


「せっかくだから、調理してみましょうか! 今まで散々私たちを苦しめてくれたんだから、腹いせに私たちのお腹に入れてしまいましょうよ!」

「それもそうね!」


 わーい! ヤク爺さんの奥様のおかげで、女性陣がノリノリになってくれた。

 そこからは奥様方が男性陣に駆け寄り、あれこれと指示を出し始める。

 なるほど。調理となると、女性のほうが強いのかな。

 この土地でのイカ料理も気になるけど、あとで少し分けてもらって、イカ焼きやフリッターを作るぞ!





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