20.海割り
「なかなか引き上げられませんねっ……!」
「これはおそらく、海中の藻か暗岩に絡みついて抵抗しているのかもしれませんっ!」
力を入れて引きながらの私の呟きに、ジャックさんが答えてくれる。
そうか。よく猫とかを病院に連れていくときキャリーに入れようとして抵抗するあれね。
やーだー! って感じで、ソファとかにしがみ付く姿は可愛かった。……独り暮らしの私は動物を飼うことはできなくて、動画で我慢していただけだけど。
でも、クラーケンは可愛くない。……ちょっと可愛いかもだけど、害獣がすぎる。
このまま釣り糸に雷系の魔法を流して、感電させてから釣り上げる?
いや、それだと他の海の生き物たちに迷惑だ。
炎系や水系は後で美味しく食べるためには避けたいし(そもそも海中だからね)、だとすれば氷系?
でもそれだと、他の生き物を巻き添えにする可能性がゼロではないから、風系?
あ、そうだ!
「やっぱり、海を割りましょう!」
「はい?」
「……へ?」
「何ですと?」
「海って割れるんですか!?」
私の提案に、エレシムさんもジャックさんもヤク爺さんもぽかんとした。
頭の上にはてなマークが見えるようだけど、ポンちゃんだけはわくわくしている。
「技名は『モーセの海割り』ってことで、えいっ!」
勢いよく海に向けて風魔法を放ち、風圧で海に少し切れ目を作り、そこから浮遊魔法を応用して切れ目に圧力を流し込み海水を左右に割る。
立ち上がった海面はまるで水族館の大水槽みたいで、魚が泳いでいるのが見えた。
うん。海底に生えていた海藻はへにゃっているけど、すぐに元に戻すから頑張ってほしい。
ちょっと調子に乗って技名とか考えちゃったけど、まさしく映画で見たモーセの海割りだね。
ただし、あの伝説とは違って、私たちは海底を歩いたりはしない。
割れた海の先で暗岩にへばりついているクラーケンを引き上げたいだけ。
「ここで、クラーケンに向けて雷系魔法を放って痺れさせますから、引き上げを皆さんで手伝ってもらえますか?」
「はい!」
「もちろんです!」
私のお願いに、ポンちゃんはぱっと顔を輝かせて、私の上着の裾を掴む。うん、可愛い。
ジャックさんは力強く答えてくれて、エレシムさんも私の手を避けて釣り竿の柄を握った。
どうせなら、みんなで大きなカブのように引き上げたほうが達成感があるからね。
私の手からビリビリと強めの静電気のような電光が走る。
ポンちゃんやジャックさんが感電しないように気をつけながら、クラーケンに向けて雷を放った。
うん。あれくらいの強さなら痺れさせるだけでいけそう。方向も大丈夫。
雷光はまっすぐクラーケンに向かい命中すると、岩に絡みついていた足が力をなくして海底にずしんと落ちた。
「よし、成功! さあ、引き上げましょう!」
「お、おう!」
「はい!」
雷で気絶したクラーケンは、抵抗することなくずるずると動く。
って、本当に大きいから重い。
ジャックさんやエレシムさん、そしてポンちゃんと一緒に力を合わせて釣り糸を引いてくれて、私はリールを巻く。
そして最後は浮遊魔法を使って陸上へと引き上げた。
「やったー! ユーナ様、すごいです!」
クラーケンを引き上げたのは、競りが行われるような倉庫の前にある広場のような場所。
たくさんの空の木箱が積み上げられているけど、漁が再開されたらきっとこの木箱も魚でいっぱいになるのかな。
「やった……」
初の大物を釣り上げたことでテンションが上がる。
そのせいで、うっかり油断してしまっていた。
思った以上にクラーケンは丈夫だったようで、私の雷魔法で死んだんじゃなくて、どうやら気絶していただけみたい。
それで、長い足がぶんって私に向かって勢いよく振り上げられた。




