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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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1.炎リザードのテールステーキ


【魔女の知識:この世界に魔法使いは力の差はあれど、多数存在する。だが、〝魔女〟と呼ばれるのは、〝悪逆の魔女〟ただ一人のみ】


「お待たせしました! 炎リザードのテールステーキです!」

「わー! すごい!」


 食堂兼宿屋の店主さんがテーブルにドンっと置いてくれたステーキは、まだメラメラと青い炎が小さく立ち上がっていた。

 同時に肉汁がじゅわっとしみ出ていて、ソースのスパイシーな香りと混じって鼻孔をくすぐる。

 これはぜったい美味しいやつ。食べなくてもわかる。


「美味しそ~!」

「すごいです! ボク、リザードは初めて食べます!」


 私が思わず感嘆の声を上げると、隣に座っているポンちゃんも興奮したように言う。

 タヌキなポンちゃんは人間に上手く化けているので、町の人たちはただの魔法使い見習いだと思っているみたい。

 これぞ旅の醍醐味! ご当地グルメ!


 とはいえ、最近はリザードの出没が減ったから幻の珍味とも言われているんだよね。

 昔はこの土地もリザードの名産地だったらしい。――うん。リザードの名産地というのも変な言い方だけど。

 だから、町の名前も『リザ』というみたい。


 リザードは害獣指定されているから、討伐され尽くしてこの土地では絶滅したはずだった。

 相対して力ある魔法騎士や魔法使いも土地を離れて久しいところで、まさかのリザード種最強の炎リザード出没で被害が出て困っていたみたい。

 ちなみに、この世界には希少種だからって、種の保存なんて生ぬるい考えはない。生きるか、死ぬか、それだけ。


 私たちの今回の旅はこの異世界をいろいろ見て、美味しいものを食べようっていう気ままなぶらり旅だけど、こうしてたまに魔獣討伐とかもする。

 人助けも力ある者の義務だと思うから。――とか、かっこいいこと言ったけど、報酬が出るならもちろん受け取る。奉仕精神? 何それ、美味しいの?

 ということで、今回の報酬はこのご馳走だけど、不満は全然ない。だって、美味しそうだもん。

 わくわくしながらナイフとフォークを握って、調理してくれた店主さんににっこりお礼を言う。

 世の中、礼儀が大切だからね。ギブ&テイクとはいえ、感謝の言葉があるだけで、全然印象は違う。


「ありがとう、店主さん。リザードの調理は大変って聞きますが、こんなに美味しそうにお料理できるなんてすごいです!」

「鱗が硬かったですからねえ。店主さんはすごいですよ」


 私の言葉にしみじみ答えたのはポンちゃん。

 ポンちゃんは店主さんに炎リザードの捌き方を教わってたからね。

 今後の旅の途中で野良リザードに遭遇した場合の参考にするとか言ってたけど、そんなにはいないと思う。

 とはいえ、野宿するときのご飯も美味しいほうがいいのは間違いないから、ポンちゃんの向上心は応援したい。

 店主さんは私とポンちゃんの言葉を聞いて「わはは!」って嬉しそうに笑った。


「今じゃあ炎リザードを倒せる人間はそうそういませんからね! 私も祖父が残していたレシピを見ながら初めて調理したくらいですから! あ、でも味は保証しますよ! もちろん、他の料理もね!」

「それは疑ってないです」


 だって、この宿に泊まって二日、どのお料理も美味しかった。

 ポンちゃんも「うんうん」って頷いて、店主さんが嬉しそうにまた「わはは!」と笑う。


「ありがとう、魔法使いのお嬢さん! そう言ってもらえて、本当に嬉しいよ! まさか、お嬢さんとこんな小さなお連れさんが炎リザードを倒すとは思ってもいなかったが、おかげで私たちもようやくここ数年の苦労から解放されるんだ! 今日は町をあげてのお祝いですよ!」


 このリザの町一番の大きな宿屋であるここは、この町一番の大きな食堂でもあって、たくさんの町の人たちが詰めかけている。

 一年ほど前から近くの森に棲息してしまった炎リザードに家畜だけでなく、怪我をするなどの人的被害も出ていたらしい。

 戦争が終わった今でも、魔法使いや魔法騎士などの力を持った人たちを派遣してもらえなかったのは、この小さな町までは手が回らなかったから。

 それで、旅途中の私たちが炎リザードを倒したことで、今日は町をあげてのお祝いになったんだよね。




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