17.おもてなし
「今のはわしの息子です。ひとまずわしの家で話をしましょう。その準備に走らせました」
「――ありがとうございます」
話をするのに準備がいるって、よっぽどお家が散らかっているとか?
別にかまわないんだけどな。――って、思っていたら、すごいおもてなしをされてしまった。
しばらく漁に出られていないはずなのに、テーブルには海鮮料理が並んでいるんですけど。
「……先に、そちらの約束を果たしてしまおうってことですか?」
「いえ、これは単にベイカ風の客人をもてなすための料理ですよ」
「では、ありがたく頂きます」
エレシムさんが苦笑しながら説明してくれたけど、その顔にも口調にも嘘がないのがわかる。
今は漁に出られないのに、長期保存用の海鮮をアレンジした料理を中心にこうしてもてなしてくれるなんて、いい人たちだ。
疑った自分を恥じて、隣でよだれを垂らしそうな感じで料理を見ているポンちゃんに声をかける。
「ポンちゃん、いただこうか?」
「はい!」
ヤク爺さんの息子さんが走ってお家に戻られたのは、奥さんたちにお料理をしてもらうためだったみたい。
散らかっているのかとか思ってごめんなさい。
ヤク爺さんに勧められてフォークを手に取り、料理を口に運ぶ。
アンチョビパスタみたいな料理も、アヒージョのようなものも、塩分取りすぎ注意ではあるけど美味しくてお酒が欲しくなる。
でも、これからクラーケン退治のための作戦だから我慢。――と思ったら、白ワイン出てきたー!
サングリアもあるー! ああ、どれを飲もうか悩ましい。
私、お酒は強いんです。というよりザルだけどね。
ポンちゃんにはぶどうジュースまで用意してくれる。
「それでは、まずお聞きしたいんですが、今までにクラーケンを捕獲、もしくは退治しようとはされましたか?」
「ええ。三度試みました。一度目は陸上から大量の酒を流して誘き寄せましたが、我々の銛ではまったく歯が立たず、長く太い足を岸に向けて一蹴されて終わりました」
「お怪我はなかったんですか?」
「幸い、向こうも驚いていたようですぐに逃げたので、骨折した者が二名と裂傷を何名かが負いましたが、エレシムのおかげですぐに回復しました」
「そうでしたか」
骨折をすぐに回復できるレベルの治癒師ってことは、やっぱりかなり強い能力だ。
エレシムさんをちらりと見ると、なんとも言えない微笑みを浮かべていた。
「それでは、二度目は?」
「海上からです。大型船を出してもらい、小型船を繋いで酒樽を積んでいたんですがね……大型船までクラーケンに破壊され、沈没してしまいましたよ」
「大丈夫だったんですか?」
「皆泳げますからね。すぐに他の小型船で救出に向かい、事なきを得ました」
そう聞いて、思わず私は詰めていた息を吐き出した。
大型船を破壊って、どんだけ……。
「そして、三度目ですが……」
「はい」
「近隣からも自警団などの男たちを集め、陸上で待ち構えていたのですが、出現することはありませんでした」
「学習したようですね」
「ええ、そのようです」
「でも、街道などを進んでいると、襲われてしまうんですね?」
「はい」
やっぱり神出鬼没の一番厄介なやつ。
待ち伏せというか、お酒を囮にしても、もう引っかからないって、擦れてしまったんだ。
魚釣りでも、穴場がいつの間にか大勢の人に知れ渡ったりしたら、そこに棲息する魚も擦れちゃって釣れなくなるんだよね。
って、そうか。ふむ。
「よし! イカ釣りしよう!」




