16.魔法使いの契約
魔法使い同士の契約は内容をよく話し合って決めてから、それを文書にする。
まあ、文書にする必要はないんだけど、内容に間違いないかの確認でもあるから。
そして、魔法使い同士向き合って、声に魔力を乗せてお互いの条件を言葉にして、最後に締めくくりの文言を口にすれば契約成立。
「我、魔法使いユーナは、クラーケン退治を条件にこの街の海鮮料理と宿の提供を求める」
「我、魔法使いエレシムは、ユーナにこの街を害するクラーケン退治を条件に、この街の海鮮料理と宿を提供することを約束する」
あ、この条件だと普通に今すぐこの街から去れば、クラーケン退治しなくてもいいってことだ。
やっぱりエレシムさんは優しいな。
ただし、一度でもこの街の海鮮料理を食べたり、どこかに泊めてもらったら、クラーケン退治しないとダメってこと。
でも大丈夫。自信はある。
「我、魔法使いユーナは以上の契約を守ることを誓う」
「我、魔法使いエレシムは以上の契約を守ることを誓う」
ほとんど同時にお互いの声が重なるように誓文の締めの言葉を口にした途端、二人の右手首が一瞬光って消えた。
私が魔法使い同士の契約をするのは初めてだけど、記憶にある通り、右手首にまるで蔓バラの蔦が絡まったような入れ墨っぽい腕輪のような痣ができた。
日本だとタトゥーを入れているように見えるかも。
だけど、誓いを破るとこの蔦は赤くなって全身に広がっていき、最後は黒くなって死に至らしめるとか。
怖いけど、大丈夫。約束を守って、今はまだ蕾であるこの花を咲かせれば、散るように痣は消えていくらしい。
むしろ、よくこんな契約をエレシムさんは受け入れてくれたと思う。
そう思って手首の痣から視線を移すと、同じように顔を上げたエレシムさんと目が合った。
「魔法使いの契約を交わしたのは初めてですよ」
「私もです」
「へえ? だとしたら、ずいぶん大胆ですね」
「食いしん坊なんです」
海鮮が食べたい。イカ焼き絶対食べる。
その強い意思で魔法使い同士の契約を交わしたと暗に告げれば、エレシムさんは声を出して笑い出した。
他のみんなは呆気に取られて見ている。
「……こんなに、声を出して笑ったのは……久しぶりですよ」
「よかったです」
たぶん、治癒師として戦争を経験したエレシムさんはつらい場面にもいっぱい遭遇したと思う。
しかも、クラーケンの被害でもつらい思いをしたんじゃないかな。
「さて、ポンちゃん。お待たせだけど、もう少し待ってくれるかな?」
「はい、大丈夫です」
ずっと黙って待っていてくれたポンちゃんは、それでも無意識に私の上着の裾を掴んでいたみたい。
私が声をかければ、ほっとしたように手を離したけれど気づいていないね。
たぶん、私が攻撃されたときのために、身構えていたんだと思う。
「おや、ずいぶん可愛らしい魔法使い見習いですね」
「見かけに騙されないでください。ポンちゃんはとっても強い魔法使いですよ」
「……そのようですね」
あれ? ポンちゃんの可愛らしさに騙されたかと思ったけれど、エレシムさんは真剣な表情で頷いた。
相手の実力をしっかり見抜けるっていうのは、かなり上位の魔法使いだ。
気をつけないと、私の正体もバレてしまいそう。
「それじゃあ、作戦会議といきたいんですが、よろしいですか?」
「もちろんです。ヤク爺、いつまでもここに立っているわけにもいきませんし、場所を移動しましょう」
「あ、ああ……」
どうやら長老のようなおじいさんは『ヤク爺』と呼ばれているみたい。
エレシムさんとのやり取りをぽかんとした様子で見ていたけど、声をかけられて我に返ったらしくて、隣に立つ大きな男性に声をかける。
男性は頷いて、すぐに走り去ってしまった。




