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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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15.交渉


 ざわつきながらも何も言ってくれない人たちに自己紹介と目的を伝えてみたけれど、私を取り囲む人たちの背後が騒がしくなっただけで、警戒を誰も解いてくれない。

 あの戦争からもまだ一年だもんね。

 みんなの心が癒える前に、クラーケン出没となると、そりゃ心も固く閉じちゃうよ。

 炎リザードを退治するってときは、森にさえいかなければリザの町の人たちに被害はなかったからそこまで緊急事態でもなかったし、怪しまれないように振る舞ったからすんなりいった。

 こういう場合、どうすればいいかな?

 先に他の町で酒樽を手に入れてから、勝手に退治すればよかったかも。


 私がまた後悔していると、武器を構えた人たちの後ろから白髪のおじいさんが現れた。

 これはまさかの長老? というか、街長的な人?


「あなた方が魔法使いというのは、空から降りてきたことでわかりました。かなり力も強いようだ」

「はい」

「だが、なぜいきなりいらっしゃったのか? 国から派遣されてきたのですか? 何も報せはありませんでしたが……」


 あちゃー。そうか。

 浮遊魔法を使えるほどの魔法使いなら、王国軍所属の場合が多いよね。

 しかも、魔鳥で王都にクラーケン出没を知らせて助けを求めていたらしいから、普通なら退治するために魔法使いが行くよって、返事があるはずだもん。

 いきなり野良魔法使いがやってくるとは思わない、というより怪しむか。


「私は王国軍には所属していません。旅の途中で、駅馬車の御者の方にこの街のことを聞いて、放っておけないと思ってきたんです」

「ただそれだけで? 話を聞いたのなら、大型船さえも襲う巨大なクラーケンだとわかっていらっしゃるのでは?」

「ええ、聞きました。だから、一撃必殺でいかないと大変ですよね」


 自分で言ってて、ちょっと恥ずかしい。

 まさか私が『一撃必殺』なんて言葉を現実で使う日がくるなんて、思いもしなかった。

 でも笑う人は誰もいなくて、不審げな顔をする人、ちょっと希望を持ったような顔の人と様々。

 私がもっと強そうな男性とかだったら、すぐにでも信じてもらえたのかな。


「……王国軍の魔法使いではなくても、認定された魔法使いであるという証明はできますか?」

「できません」


 やっぱり私とポンちゃんの身分証がないことが痛い。

 普通に旅をするだけじゃ、そんなに困らないけど、関所みたいなところがたまにあって、そういう場所を通過するときには必要になる。

 というわけで、私たちは空を飛んでこっそり越えているんだけど。


「正直に言って、我々はあなた方を信用できない」

「それはわかります。でもクラーケン退治はさせてくれませんか?」

「たとえ退治できたとして、あとから莫大な報酬を請求されても困ります」

「じゃあ、先に契約しませんか? 契約は私たち魔法使いにとっては縛りです。私が望むのは、クラーケンを誘き出すための酒樽ひと樽と、退治した後に美味しい海鮮料理をいただければそれでかまいません。あ、あとは泊まる場所を提供してくだされば助かります」


 私がクラーケン退治の条件を提示すると、おじいさんたちはすごく疑い深い顔になった。

 わかるよ、うん。どう考えても安い依頼料だよね。

 それで大物の魔獣――クラーケンを倒そうっていう相手は怪しいと思う。


「ここには、治癒師の方――魔法使いがいますよね? その方と契約してもかまいません」


 私がさらに提案すると、おじいさんは驚いたように細い目を見開いた。

 だけど、他の人たちは首をひねっている。

 うん。魔法使い同士の契約がどれほど重要か理解している人は少ないもんね。

 私の声が聞こえたのか、人垣の後ろのほうから誰かやってくる気配がした。


「――本気で私と契約するおつもりですか? 先ほどの条件で?」

「エレシム!」


 人垣から現れたのは三十歳前後の男性で、細身だけれど背が高く、整った顔立ちをした魔法使いだった。

 その男性を叱りつけるようにおじいさんは名前を呼んだけど、それは守ろうとしているからだってわかる。

 エレシムさんって方は治癒能力に特化しているらしくて、たぶん戦争にも徴兵されてたっぽい。

 だから余計に心配されているんだろうね。


「はい。間違いありません」

「……あなた方の利が何もありませんが?」

「ですから、先ほど言ったように、私は美味しい海鮮が食べたいんです。あとは寝床があれば嬉しいなっていうのが、クラーケン退治の条件です。この街の海鮮はとっても美味しいって評判でしたが、クラーケン退治の報酬にはならないと思っているんですか?」

「いいえ。この街の海鮮料理は私たちの自慢ですよ」

「なら、条件としては問題ないはずです。クラーケンを退治すれば、漁にも出られますよね?」

「……本気で魔法使いの契約をなされるつもりですか? あなたはクラーケンを退治するまで、この地を離れられませんよ?」


 エレシムさんは優しい人なんだと思う。

 私のことを疑いながらも心配してくれてる。

 クラーケン退治は私にとっては簡単なクエストのようなもので、この約束も大したことはないから気軽に魔法使い同士の契約を持ち出してしまったのに。

 そもそも、そんなに簡単に私を信じて大丈夫?

 優しいだけじゃ、上手く使われるばかりで、魔力を搾取されるだけじゃない? って、この考えは捻くれすぎているかな。

 魔女の影響と思いたいところだけど、これは社畜時代に荒んでしまった私の心のせいだ。


 何ていうか、私の心も相反するものがあって、それがよくわからないんだよね。

 力を隠したいのか、魔女だと露見してでも人助けをしたいのか。

 さっき反省したばかりなのに、さっそく考えなしの行動をしているし。

 ひょっとして、この旅で魔法使いに出会うのが実は初めてだから、テンションが上がっているのかもしれない。

 とにかく、困っている人たちを助けたい気持ちも、美味しいものを食べたいって気持ちも間違いはない。


「私が退治できないと思いますか?」


 あれこれ考えても仕方ないし、賽は投げられた――というか、投げちゃったから、話を進める。

 それで自信があるように問いかけると、エレシムさんはふっと笑って首を横に振った。


「――いいえ。思いませんね」

「それでは、お願いします」


 よし。契約は成立だね。もちろん本契約には手順があるけど。

 とにかく、クラーケン退治して大イカ焼きを食べるぞ!

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