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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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14.ベイカの街


 街の真上からみた景色は白と青のコントラストが本当に綺麗で、太陽の光が波に反射して眩しくて何度か瞬きをした。

 明るさに目が慣れてくると、街並みが頭の中だけじゃなくて直接見えてくる。

 岬から広がる街は扇型をしていて、いくつかの道が外へと伸びているけれど、やっぱり海岸沿いの道が一番広い。

 海岸沿いは起伏も少ないし、物流のための主要道路なのはぱっと見てわかる。

 その街道が使えないとなると、かなり不自由だろうね。

 突堤には大小の多くの船が係留されているけど、海には一隻の船も見えない。

 本来なら港は賑やかなんじゃないかと想像できるくらいなのに、今は静まり返っていて寂しく思えた。


 それでも、街の中へと視線を向けると、たくさんの人たちが外で作業しているのが見えて、まだ街は元気なんだとわかる。

 だけどそれも、クラーケンが退治されないことには、この活気も消えていくかもしれない。

 少し山のほうへと視線を向けると、おそらく物資を積んでいるであろう荷車が何台か見えたけど、それも無料というわけじゃないはず。

 だとすれば、この街の人たちの収入源になるはずの漁が再開できなければ、やがてみんなの資金は尽きるもんね。


「ポンちゃん、下りるよ」

「はい」


 覚悟を決めて少しずつ降下を始めると、誰かが私たちに気づいたのか街が騒がしくなっていく。

 街中に警鐘の音が響いている。

 これからどう反応されるか怖いけど、やるしかない。

 扇型に広がる街の中心らしき場所は、ちょうど扇の要そのままのような場所にある広場だと思う。

 そこには噴水があって、円形に石畳が広がって家屋が広場を囲むように建ち並んでいる。

 その広場から道が四方に広がっていて間違いない。――と思う。


 ほら、広場を囲む家屋の一つから武装した人たちが慌てて出てきている。

 たぶん、あそこは警備兵たちの詰め所かな? その建物の上に半鐘が吊り下げられた塔が見えた。

 その半鐘を叩くのは、まだ少年のようで必死の形相になっていて、申し訳なってくる。

 やっぱりこっそり街へ入るべきだった?


「ユーナ様、大丈夫ですか?」

「――うん、大丈夫だよ。ありがとう、ポンちゃん」


 私の後悔が伝わったのか、ポンちゃんが心配そうに問いかけてきた。

 しっかりしないと。私が目立つように登場するって決めたんだから。

 耳に甲高く聞こえる半鐘の音が、もう一つ重なる。

 どうやら高台にある灯台の半鐘も誰かが鳴らし始めたみたい。

 港町だから、街の中心だけじゃなくて、海岸近くにも警鐘を鳴らすための半鐘があるのは当然だけど、思っていた以上に大事になってしまった。


 自分の考えの浅さにがっかりしたけれど、早くクラーケンを退治して、街の人たちを安心させてあげたい気持ちが強くなる。

 さあ、胸を張って堂々と。


 ふうっと息を大きく吐いて、防御魔法を再確認して、街の中心にある広場に降り立つ。

 途端に武装した男の人たちに囲まれてしまったのは仕方ないよね。

 女性や子どもたちはお家の中に避難したみたい。


「魔獣か!?」

「人間じゃないのか!?」

「まさか、魔法使いか!?」

「いや、そんなバカな!」


 私たちの正体について、みんな武器を構えたまま口々に推測している。

 私が立派な成人男性なら、魔法使いってことで結論が出たかもしれない。

 でも、私とポンちゃんだけだと怪しさ満点だよね。

 女性の魔法使いがいないわけじゃないけど、浮遊魔法を使えるほどとなると男性でもなかなかいないから。

 うん。空からの登場は完全に失敗だったな。力の示し方は別の形でもよかったよね。

 後悔先に立たず。とはいえ、やり直すことはできなくても、フォローすることはできる。


 ざっと周囲を見まわしたところ、この街の警備兵が半数、一般男性が半数といったところで、やっぱりどこも人手不足――兵士不足なんだなって思う。

 まあ、平時は普通に働いて、いざってときは出動する自警団かもだけど、力の強い魔法使いはいない。

 ちょっとだけ意識を集中して街中の魔法使いを探すと、奥のほうに一人いることがわかった。

 でもたぶん、彼は治癒係だ。


「皆さん、はじめまして。こんにちは。いきなり空から失礼しました。驚かれるのは当然ですが、私たちに敵意はありません」


 噴水の中心で真っ白な石に彫られた女性像が持った壺から水が流れ落ちる音が、私の声を虚しく引き立ててくれる。

 それくらい辺りは静まり返っていて、緊迫感がすごい。

 だから、にっこり笑顔でホールドアップ。武器は持っていませんよアピールしたら、ポンちゃんも同じように両手を上げた。うん、可愛い。

 って、癒されている場合じゃなくて、街の人たちに私たちが無害じゃないとしっかり伝えないと。


 街の人たちは戸惑ってはいるようだけど、警戒はまったく解いていない。

 それも責められないよね。たぶんクラーケン出没のせいで、街の産業でもある漁にも出られなくて、先も見えない状態だろうから心も荒むよ。

 この凝った彫刻の噴水といい、石畳が敷き詰められている広場といい、この街は豊かだと――だったということがわかる。

 お金がすべてじゃないけど、心の余裕を生むように、物質的な豊かさは心の豊かさを生むんだよ。

 要するに、普段はおおらかな人でも切迫した状態だと攻撃的になるもの。


「私はユーナ。こちらはポン太です。私たちは魔法使いで、この街がクラーケンの被害に遭っていると聞いて、退治しにやってきました」



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