13.パフォーマンス
翌朝、部屋の中で買い込んでいた朝ご飯を食べてから、ご主人に残りの宿泊代を払って宿を出る。
街はもう多くの人たちが動きだしていて、私たちは目立たない。
旅人のほとんどが駅舎へ向かっているけど、歩きの人たちもいて、その流れに入って街道を進む。
ベイカの街へはここからだと山越えが必要だから、かなり迂回しないとだめらしい。
私とポンちゃんは街道を進みながら徐々に他の人たちから離れて、前後に誰も見えなくなったところで、道を逸れて藪の中へと入っていった。
「ポンちゃん、行こうか?」
「はい、ユーナ様」
隣を進むポンちゃんに手を差し出せば、しっかり握ってくれる。
そこからは浮遊魔法で低く飛んで山の奥へと進んでいった。
「そろそろ大丈夫かな?」
「高く飛びますか?」
「うん。ここまできたら、たぶん私たちが空に浮かんでも見えないだろうし、たとえ見つかっても大きな鳥くらいにしか思わないからね」
「ボク、ユーナ様に手を借りて、空を飛ぶのは大好きです」
「それならいっぱい高く飛ぼう」
初めの頃はちょっと怖がっていたポンちゃんだけど、今はすっかり慣れたどころか楽しんでくれるようになったんだよね。
「じゃあ、ポンちゃん。行くよ?」
「はい!」
ポンちゃんに声をかけて、そこからは急上昇。保護魔法で風圧気圧低温に対応できるようにして、猛スピードで御者のおじさんが昨日教えてくれた方向へ飛ぶ。
「ユーナ様、あの向こうがすごくきらきらしてます!」
「本当だね。たぶん、あれが海だよ」
「あれが海? あんなにきらきら輝いているんですか? 宝石みたいですね!」
「今日はお天気がいいからね。太陽の光に波が反射しているんだよ。ほら、森の中の湖もお天気のいい日にはきらきらしていたでしょう?」
「そうでした! じゃあ、海って本当に大きいんですね! 向こういっぱいきらきらしてます!」
「うん。近づいたらもっと果てが見えないくらい大きくて驚くよ、きっと」
「すごいです~」
遠くに見えてきた海に、ポンちゃんはテンションが上がってる。
私も海を見ると、テンション上がってたもんね。近づくと意外と汚くて黒くてがっかりするんだけど。
ここの海はどんな感じかな?
南国リゾートみたいな真っ青で綺麗な海だと嬉しいな。ま、私は泳げませんが。
ただ、この保護魔法があるから、最悪クラーケンに海に引きずり込まれても心配無用。
戦ったことはないけど、魔女の記憶が大丈夫と太鼓判を押してくれてる。
こういうときに、私は〝悪逆の魔女〟なんだなって思う。
「ユーナ様、どうしましたか?」
「ううん、なんでもないよ」
せっかく海が見えてテンション上がってたのに、ついため息を吐いちゃって、ポンちゃんにいらない心配をかけてしまった。
とりあえず、あれこれ考えるのは後。
旅を続けるためにも〝悪逆の魔女〟というのはバレないようにしないといけないとはいえ、ほどほどの力ある魔法使いのふりをしないといけない。
そうじゃないと、クラーケン退治に挑戦もさせてくれないだろうし。
そりゃ、人知れず退治するなんてかっこいいことをするのもありだけど、街の人たちにもうクラーケンに怯えて暮らさなくていいんだってことは知らせないと。
何より、海鮮料理を堪能するには、二人旅をする私たちを受け入れてもらわないとダメだと思うんだよね。
魔女はお肉ばかり食べていたみたいだし、せっかく港町で海鮮料理を食べるなら、家庭の味とか知りたいという欲もある。
「ポンちゃん、これからはほどほどに力を使うから、ちょっと騒がれるかもしれないけど、いいかな?」
「ボクはユーナ様がよければそれでいいです。でも、一番弟子はボクですからね」
「うん。それは間違いないよ。っていうか、弟子はポンちゃん以外に取らないし」
「じゃあ、ボクはユーナ様の特別ってことですね?」
「そうだよ。ポンちゃんがいなかったら、私はこんなに楽しい生活ができていなかったもん」
「えへへへ」
照れて笑うポンちゃんが可愛い。
もし私が〝悪逆の魔女〟だとバレてしまって迫害されるようになってしまったら、ポンちゃんまで巻き込んでしまうことになるから、できる限り気をつけないと。
「そろそろ下りるけど、準備はいい?」
「いつでも大丈夫です!」
「じゃあ、今回は街の中心に下りるからね」
「隠さないんですか?」
「クラーケンを倒せるって証明するためにも、力ある魔法使いだって思ってもらわないとだからね」
「なるほど~」
しつこいようだけど、海は広くて深いから、その中からベイカの街に多大なる被害を与えているクラーケンを探し出すのはちょっと大変。
それなら、酒樽を用意してもらって、誘き出したほうが早い。
そのためにも、強い魔法使いだってさっさと示す必要があるとの判断。
ちょっとした魔法で街の様子を上空から探って、街の中心地を見つける。
領主さんがいる場所だと、領館の庭とかで話しをつけるのが早いんだけど、この街の長がどこにいるのかわからないから、今回は目立ってしまえ作戦。
今までと大きく方針転換した自分に笑えた。
「万が一にも、魔獣とか敵襲に間違われるかもしれないから、防御魔法もしておくね。ポンちゃんも覚悟しておいて」
「わかりました」
ポンちゃんはようやく人間に化けられるようになったけど、普通の魔法は早くから使えてたんだよね。
だから、攻撃されて反撃したりしないように先に注意しておく。
眼下に見えるのは真っ青な海と、白壁の家が立ち並ぶ街並み。
社畜時代に地中海クルーズの映像を見たときには、羨ましさを超えて逃避しかけたけど、こうして似たような場所に来ることができるなんてね。
だけど今回は観光に来たわけじゃないから。




