11.クラーケン
「あの、船はどうなんですか? そんな大きなクラーケンが出没するとなると、大型船でも危ないんじゃ……」
「その通りだよ、お嬢さん。海上輸送で物資も運び込めない、陸上だと遠回りになる山道を使わなければならないってことで、ベイカの街は今ずいぶん大変なようだ」
「さすがにそれだと、国がどうにかしてくれないんですか? 物資が届かないって死活問題じゃないですか」
「国には要請しているようだがねえ。相当な力のある魔法使いじゃないと厳しいが、先の戦争でなかなか……。ほら、クラーケン相手だと、最悪長期戦になるかもしれないだろう? 海の中に逃げ込まれたら手も足も出せない。クラーケンは頭もいいそうだからなあ。過去にもクラーケン退治はずいぶん難儀したとある」
「あ~」
海は広くて深いもんねえ。魔女の知識の通りだ。
逃げられて警戒されたら、次の機会はなかなかないどころか、本当に神出鬼没で手がつけられなくなってしまう可能性大。
それもこれも、一年前の戦争のせいかもしれない。
炎リザードだってあの地域では絶滅したって言われてたのに、出没するようになったし、クラーケンにしてもそうかもしれない。
今まで――戦争前まではこの国の人たちが長い時間をかけて住みよい場所に変えていったんだろうけど、戦争のせいで力ある魔法使いや魔法騎士、王国軍だってかなりの打撃を受けて、魔獣退治どころじゃなかったんだろうね。
「……迂回してベイカの街へ行くとしたら、ここからだとどれくらいかかりますか?」
「なんだい、お嬢さん。あの街に知り合いでもいるのか?」
「ええ、まあ……」
「そうだなあ。次の街がひとまずこの駅馬車の終着点となっているから、そこから別の馬車に乗り換えて……二十日近くかかるだろうな」
「そんなに!?」
「ああ。二度ほど乗り換えが必要になるし、山道を行くことになるから、山賊にも警戒しなきゃならん。上手く物資を運ぶ商隊に合流できればもう少し早いかもな。彼らは独自で護衛を雇っているから」
「そうですか……」
できればこっそりベイカの街に入って、海鮮三昧を楽しみたかったけど、そんな場合じゃなさそう。
そもそも船を出せないんじゃ、お目当ての海鮮だって手に入らないだろうし、街の人たちはかなり厳しい状況なんじゃないかな。
「いつからクラーケンが出没しだしたんですか?」
「わしらが知らされたのは、二十日ほど前か? 少し前からベイカの街へは行くなというお達しはあったんだが、事情は知らされてなかったからな」
「ということは、もっと前からってことですね」
「そうなるなあ。ベイカは大きな街だから伝達用の魔鳥もいるはずだが、王都へも被害の報告は届いていても、やはりここまで距離があるから対応は時間がかかるだろうなあ」
うーん。はっきり言って、クラーケンも倒せる自信はある。
それなのに目立ちたくないとか呑気なこと言って迂回してたら、それまで街の人たちは不安な思いを抱えて過ごさないといけないってことだよね。
そもそも、また流通を再開させるためには、クラーケンが退治されたことを周知されないと意味がないわけで。
何より、私はイカ焼きが食べたい。もう口がイカ焼きでしかない。
人を食べていないどころか、アル中――アルコール漬けのイカって最高じゃない?
そう考えて、おじさんとの会話を黙って聞いてくれていたポンちゃんを見下ろすと、にっこり笑ってくれた。
どうやら私の考えはしっかりバレていたみたい。
「ボクはユーナ様の思うようになさればいいと思います」
「うん。そうだね」
ここでうだうだ考えているうちにも、ベイカの街の人たちは不自由を強いられているんだ。
打倒、巨大クラーケン!




