9.【魔女の器】
魔女はかなり機嫌が悪かった。
なぜなら、私を騎士たちが助けたから。
どうやら私を『器』として召喚しておきながら、危険な森に放置したのは、私の体を乗っ取るために私の意識が邪魔だったらしい。
瀕死の大怪我でもすれば、抵抗なく私の体を乗っ取れて、それから治癒魔法で治せばいいって考えていたみたい。
それが、魔女に戦争を止めてくださいってお願いするために森にやって来ていたイケメン騎士様たちに出会って助けられたものだから、超ご立腹。
どうにかこうにか小屋にたどり着いたイケメン騎士様に、戦争を止めてほしければ自分に隷属しろって契約を迫ったんだよね。
しかも、イケメン騎士様はそれで戦争が止められるならって、隷属契約しようとしてお付きの人たちに止められたんだよ。
私もよくわかんないけど反対して、結局それで魔女は怒って精神バトル戦勃発。
気がつけば私が勝利するまでに半年近く経ってて、イケメン騎士様たちも出陣してしまってて、というわけで。
これらの出来事は、魔女に精神戦で勝利してからすべて理解したこと。言葉がわかるようになったからね。
そこでさらにわかったことは、あのイケメン騎士様が、この国の第三王子様で魔法騎士として類まれなる才能を持っていたこと。
それで魔女に目をつけられちゃったみたい。お気の毒。
とにかく私は、戦争を止めなきゃってことで大胆にも両陣営の間に割って入って止めた。
最初はぽかーんってしていた兵士の皆さんだったけど、私の正体がわかってからは動揺が激しくて大騒ぎになったんだよね。
どうして私の正体――〝悪逆の魔女〟だっていうのがバレたかっていうと、そもそもが戦場に突然現れてみんなに伝わるようにって、頭の中に直接話しかけた時点で怪しいことこのうえなかったんだけど、両陣営からの物理的攻撃をあっさり防いだから。
圧倒的力を見せつければ戦争は終わらせられると思ったのは正解だったけど、今度は私にみんなの敵意が向いた。
それはまあ当然なんだけどね。
そこでスタコラサッサと退散するときに、視界の隅に入ったのが怪我をした子ダヌキ――ポンちゃんだった。
急いでポンちゃんを戦場から救出して治癒魔法を施して、静養がてら魔女の家だった森の小屋で一緒にいわゆるスローライフを楽しんだ。
でも、社畜の頃には憧れていた『ていねいな暮らし』もいい加減に飽きてきて、ポンちゃんが魔法で人化できるようになったから旅に出ようってことになったわけ。
さすが異世界タヌキだよね。ポンちゃんは魔法を使えるんだから。
ちなみに、言葉がわからないときに散々言われていたあの「ネム」って言葉は、やっぱり「バカ」って意味でした。はい。




