その八
総理はすぐさま官邸に戻ると、緊急閣議を開いた。
そして決定する。米ソの提案を快諾することにした。
となると、ミニチュア製作のためのプロジェクトチームが必要だ。大手企業や有名大学を中心に人選する。
ところが、このプロジェクトには、大きな落とし穴が待っていた。
なにせ月面に置いておくミニチュアだ。これまでの『ハンバーガーショップ』や『ロシア料理店』はその都度、取り壊していたため、耐久性は求められていなかった。
しかし、今回は違う。
米ソからの注文書を見て、プロジェクトチームは絶句した。
ミニチュアに求められている性能が無茶苦茶なのだ。月面に放置しても、百年は元の状態を維持していなければならない。
月面に関しての情報が、それほど多くない時代のことである。米ソからの情報にも、不明瞭な点が多い。
したがって、現在わかっているよりも過酷な環境を想定して、ミニチュアをつくる必要があった。しかも、大きさや重量の制限もあるのだ。
その上、見た目も求められている。『ソフトクリームを持ったおばさん』や『酔っ払ったおっさん』をつくるわけにはいかないのだ。
はっきり言って無理難題。
「しかし、これを実現できそうな国が、世界広しと言えど、他にあるだろうか?」
プロジェクトチームのリーダーが、仲間たちに訊ねる。
すでにアメリカとソ連が、自分たちの国では無理だと言っているのだ。
かなりの衝撃に耐える金属、宇宙線に長時間さらされ続けても剥げない塗料、ミクロレベルで精密な加工技術。そういったものが全部必要になる。
日本以外に、それができそうな国は・・・・・・。




