その七
このたびアメリカとソ連は、月面開発競争における「ルールづくり」をしたという。
これまでは、できる限り「原寸大」にこだわってきたが、それを撤廃することにしたらしい。今後は「縮小版」でも可とする。ロケットに乗せる荷物を減らすための「ルールづくり」だ。
そこまで補佐官に説明させてから、米ソの首脳は急に声をそろえて、
「貴国の料理は素晴らしい!」
絶賛してきた。
こういった発言をしてくるとは予想外だったので、日本の総理大臣は少し驚いた。
と同時に警戒もする。国と国との交渉事では、よくあるのだ。まずは誉めておいて、そのあとに「非難」か「頼み事」。
米ソの首脳が食べている日本料理に、総理は目を向けてみる。
季節感のある色彩豊かな食材が、重箱の枡目に美しく配置されている。
米ソの首脳はしばらく料理を絶賛したあとで、
「我々は大きな物をつくるのは得意なんだが、小さな物をつくるのは、そこまで得意じゃなくてね」
月面に置くミニチュア、その製作を日本に任せたいという。今回は「頼み事」のようだ。非難でないことに、総理は安堵する。
アメリカの大統領が和牛を食べながら言う。
「たとえばの話、『ソフトクリームを持ったおばさん』にしか見えないものを、『自由の女神』だと言われても困るのだよ。日本製なら、そういう心配はないだろう? 期待しているよ」
ソ連の国家元首が日本酒を飲みながら言う。
「たとえばの話、『酔っ払ったおっさん』にしか見えないものを、『レーニン像』だと言われても困るのだよ。日本製なら、そういう心配はないだろう? 期待しているよ」
なお、本件に関して、アメリカが「ソ連の情報を教えろ!」と日本に言ってくるようなことはしないし、ソ連も同様だという。
総理は愛想笑いをしながら、
(とか何とか言って、どちらもスパイを送り込んでくるんだろうな)
とはいえ、悪い話ではない。現在の世界をリードしている二つの超大国、アメリカとソ連からぜひにと協力を頼まれているのだ。日本にとってプラスになる。




