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第十四節 棒の勇者、ついに最終決戦(下)其の三

 サタンの姿は以前の神のような姿に類似していたが、全く違っていた。

 身体の全長は分からないが腕一本がまるで塔のように太く大きい。彫像めいた筋骨隆々とした肉体は、不気味な黒い入れ墨で隙間なく埋め尽くされていた。

 その入れ墨はよく見れば祭壇に描かれていた紋章によく似ている……あれは魔王の象徴だったのだろうか。

 カヨは固唾を飲んだ。今のサタンは相反する神々しい光のオーラと、禍々しい邪悪のオーラを同時に纏っている。


「あれが魔王の真の姿でござるか……なんと奇怪な」


「まるで邪神だね」


 ようやく見せた魔王の真の姿。その姿に勇者達の間には緊張が走る。

 そしてサタンが右手を天にかざした。


『──光れ雷光』


「うあっ!」


 サタンの手が振り下ろされるのと同時にまずハクサイとケヴィンに向かって稲妻が落ちてきた。

 そして次々と続く雷が天から落ち、的確に勇者一人一人を狙う。


『どうだ我が稲妻は? 我の真の力を持ってすれば貴様らは矮小そのものなりィ!』


「今までのはお遊びって訳か──」


 軽口を叩く暇もなくカヨの頭上から稲妻が走る。カヨはそれを避け如意棒をサタンに放つ。

 サタンはカヨの攻撃に反応すらしなかった。如意棒はサタンの肉体に当たると弾き返される。


「全く効いていない!?」

「カヨ危ない!」


 驚愕するカヨにも容赦なく雷が牙を剥く。ミーシャに注意されカヨは何とか黒炭にならずにすんだ。


「くそ! ただでさえ攻撃する隙すら少ないのに更に攻撃が効かないなんて!」


 カヨは動き回りながら叫ぶ。他の勇者も避けるのに手一杯で攻撃にまで手が回らない。

 雷鳴とどろく天空にサタンが悠然とそびえ立つ。勇者達は雷から逃げ惑うばかりで一向に攻撃の目処が立たない。

 時折ナイトが剣で斬り付けたり、アルカードがかまいたちを飛ばしたりするがサタンに手傷を負わせるまでには至らない。


「どうすればいい……」


『雷だけではないぞ!

 ──焦がせ灼熱』


 雷が止んで今度はサタンの両手から巨大な火柱が噴き上がった。熱すぎるそれは大気を歪め、勇者達の視界まで奪う。

 カヨは弾け飛ぶ火の粉を振り払いながら、火柱から逃れる。


『ははははは!

 ──突き抜けろ烈風』


 一瞬間が空いたら、息継ぐ間もなく次なる技が勇者を襲う。今度は真空波、姿が見えない厄介な攻撃だ。


「ぐはっ!」


 レイヴンが脇腹に直撃したようだ。黒装束に血が滲んでいる。

 サタンは相変わらず攻撃を躱すしかない勇者を見て高笑いをあげるばかりだ。隙だらけなのでどうにか懐に飛び込みたいが──


 そこで、カヨはある事に気付いた。


「あいつに隙があるとしたら……」


 カヨは近くにいたハクサイとレイヴンにアイコンタクトを送った。二人は首を傾げていたが、伝わっていると信じる他ない。

 カヨは真空波を防ぐべく如意棒を巨大化させる。

 ぐんぐんぐんぐん、普段の限界を超えて如意棒は赤い壁になった。


「これで欝陶しい風は届かねーぞ?」


『ククク、何かと思えば……。ならば空から攻撃すればよいだけの事よ。

 ──光れ雷光』


 サタンは不敵に笑うと再び雷を落とすため手を振りかざした。



「今だっ!!」



 カヨの叫びと同時にサタンの背後に回っていたレイヴンが爪を振るった。

 サタンは仕方なく攻撃を中断し、レイヴンを叩き潰さんと大きく合掌する。レイヴンはそれを手早く躱した。


 そしてサタンが気を取られている隙に今度はハクサイの刀がサタンの肩を捉えた。

 サタンの肩に微かな傷が付き、サタンは咆哮する。


『ぐぬぬ小癪な……!』



「その身体だと小回りが効かないでござろう?」


「あの欝陶しい技は使わせないぞ!」


 ハクサイとレイヴンが素早く動き交互に攻撃する。サタンは二人の対処に忙殺されて、思うように攻撃ができない。



「いいぞ! 私達も加勢だ!」



 カヨが如意棒を握り締め、サタンに向けて駆けていった。勇者達は後に続く。

 後衛のミーシャのみが遠くから矢を放つ。


『くそう……』


 サタンの顔に苦悶の表情が浮かぶ。

 レイヴンの爪が肩に食い込んだかと思えばケヴィンの槍が脇をかすめ、アルカードの鎌が発したかまいたちが無数にサタンの身体を切り刻む。そしてその細やかな傷に合わせてミーシャの矢が狂いなく突き刺さる。

 ハクサイの刀がレイヴンの付けた傷跡を再び斬る。そしてカヨがケヴィンの付けた脇腹の傷を如意棒で抉り、差し込む。そしてナイトは完全に混乱するサタンの喉笛を──


「食らえっ……!」


 ──斬り裂いた。



『がはあああああ!! うぐっ……うぐぅぅぅ!』



 サタンが唸り、頭を抱え苦しむ。勇者達の見事な連携により再び戦局を変えたのだ。

 勇者達は攻撃を続けるため、もう一度サタンを取り囲んだ。

 サタンは得意の雷や火柱、真空波を使えずただただ闇雲に両手を振り回す事しかできない。

 対して勇者達はぴったり息のあった連携で少しずつ、少しずつサタンにダメージを与えていく。


 ──勝てる……! 勝てるぞ!!


 カヨは如意棒でサタンの顎を殴りながらそう確信した。サタンは巨大であるが故に小さい勇者達を的確に攻撃できない。そして強力な技を使う隙すら与えられない。

 今サタンは完全に追い詰められている。勝つのは勇者、魔王は敗れる。

 誰もがそう確信する。



『こざかしい……よかろう! これは使いたくなかったがな!!』



 サタンの身体に異変が起きた。邪悪なオーラと光のオーラが身体を包み始めたのだ。

 勇者達は言い知れぬ寒気を感じて思わず攻撃の手を休めた。そして、


『──我が身を糧に、闇と光よ、踊れ』


 途端、カヨの視界に目が潰れてしまいそうな光と、自分を見失ってしまいそうな深い闇が同時に飛び込んできた。

 突然の出来事に何もできず、カヨは光と闇に取り込まれる。

 カヨの身体が光と闇に分断され、溶け込む。意識も希薄になってきた。

 サタンが放った最大の技──それはカヨ達の存在をかき消す技だった。



『はあはあ……、くくく、我は勝ったぞ勇者に……! 我が究極の技を持ってな!』



 遥か遠くにサタンの姿が見える。彼も究極の技の対価を受けてかなり疲弊し切っており、自己再生もできていなかった。今彼を叩けば恐らく敗る事ができるだろう。

 だがもはやカヨは如意棒を振るう事はできない。今の彼女の身体は粒子。遠くにいるサタンの姿を眺める事しか許されないのだ。



『まさかこんな結末なんて……』



 カヨの声は誰にも届かない。今サタン対勇者の映像を見ている世界中の人類は絶望しているだろう。情けない勇者達の最後に。



『ああ、私はどうするんだ……? 実体がなくなった状態でどう攻撃する?』



 カヨは必死で思考する。が、だんだん意識さえ遠のいてゆく。思考する脳が粒子化したからだろうか? 分からない──

 カヨは近づいてくる安らかな無に自身の全てを委ねた。もはや今のカヨはなぜ戦っていたのか──なぜここにいるのか──それさえも分からないほど衰退していた。



『カヨっ、しっかりしろ!』



 混濁する意識に響く男の声。

 その声でカヨは自我を取り戻した。思い出す……確かこの声は……。



『ナイト……?』



 ナイトの姿はもはや見えない。眼球も粒子になったのだから当たり前か。

 だがしかし、だったらなぜカヨはナイトの声が聞こえる? 耳も大気と同化したはずなのに。



『簡単だ。今の俺達は精神体。だからこの会話は唯一残された精神で行っている』



 カヨは素直に驚愕した。こっちが考えている事まで筒抜けなのか。

 今度はこっちが耳を──精神を研ぎ澄ませて周りの声を聞く。



 ──全員大丈夫でござるか? 拙者はまだやれるでござるよ。



 ──まさかこれでやられたなんて思ってないだろうな皆? 俺は島の同胞やダンの無念を晴らすまで戦い続けるぞ、こんな身体になっても。



 ──僕っていう存在がこんな形になってようやくよく分かったよ。やっぱり僕は最高だ、女の子達や……もちろんカヨさんのためにもっ! 僕は負けないよサタンには……。



 ──わたしにはショウさんが待ってる……、それに償いたい罪ややってみたい事も沢山……。まさかこれで終わりにしたりしないわよね?



 ──こうやって喋れるのは久し振りだ……。ボクはアルカード、ゆっくり喋りたいが今はその時じゃないみたいだね。さあ、みんな行こう。



 カヨの心に直接、次々勇者達の声が響いた。

 そしてカヨは失ったはずの目を開ける。




 ──!?




『ようやくお目覚めかカヨ』


 カヨは取り敢えず自分の身体を確認する。大丈夫、元に戻っている。

 だが様子がおかしい。周囲には歪んだ景色が広がるばかりで何もない。


『まだ俺達の身体は戻っていない。ただ精神が確定してここまで戻ってこれただけだ』


 その言葉と同時にカヨの横にナイトが突然現れた。カヨは驚き声を上げる。

 そして続け様にケヴィン、ミーシャ……勇者達が全員虚空から生まれ出る。


『前向きに考えると、こんな世界普通の人間には来れないでござるな』


『そんな事言ってる場合じゃないよ』


 普段喋れないはずのアルカードがハクサイに突っ込んでいるのを見て、カヨはまたもや驚く。

 ここは精神世界、普段不可能な事も可能に変わる。


『で、どうやって脱出するの?』


 ミーシャがナイトをちらりと見る。ナイトは深刻な顔をして腕を組んでいたが……、


『分からん』


 とあっさり投げ出してしまった。全員虚空でずっこける。


『じゃああれか!? 私達は一生この何もない世界を漂い続けるしかないのか!?』


 カヨは思わず声を荒げる。理不尽な怒りだとは自分でも分かっているが止められない。


『サタンが! 魔王が世界を侵食しだしてるんだぞ……! ここでこんな事してたら、その間に世界が──』


『落ち着けカヨ。らしくないぞ……』


『何?』


 ナイトの言葉にカヨは眉をひそめる。ナイトは淡々と、言葉を紡いだ。


『俺に心の大事さを説いたのは誰だ? 勇者に大事な事を示したのは誰だ? ……俺の知っているお前はこういう時──馬鹿みたいに元気を出して、奇跡を起こす奴だったがな』




 ナイトの言葉にカヨは気付く。知らない間に自分は絶望していた事に。ナイトや他の勇者達がまだ諦めていないのに、自分が希望を棄ててしまっていた事に。


『すまないみんな……どうかしてたわ、私』


『カヨがおかしい事なんて前からわたし知ってるわよ』


 ミーシャの軽口に全員がくすくす笑う。カヨも思わず釣られて笑ってしまった。


『自覚はしてるさ……。さて、そろそろここを抜けようか。アルカード、今の内に沢山喋っとけよ』


『もういいさ。大事な事はまた戻ってから伝えればいい……ボクは口下手だしね』


『そっか。お前声すごく綺麗なのにな……少し勿体ないかも』


 カヨはそう言ってニカリと歯を見せ笑うと何もない虚空を指差し、


『行こう』


 と言った。ナイトはカヨを見つめ尋ねる。


『どうやって行くんだよ?』


『さあな。まあ必死で念じれば何とかなんだろ』


『随分適当だな。……だが悪くない』


 カヨは猛スピードで虚空を駆ける。他の勇者達もだ。カヨの身体はやがてブレて、歪み始めて、そして──



 勇者達が消えた世界。サタンは静かに身体の治癒を待っていた。

 この傷の完治には恐らく半年はかかるだろう──とっておきを使ってしまったのだから。


 だがもう勇者はこの世に存在しない。彼らの身体は分解され、何処かの異次元に飛ばされた。もうサタンの邪魔をする者はいない。

 身体の治癒の期間などもはや問題ではないのだ。もう魔王の身体に傷を付けれる人間などいないのだから。


『さあ、我を崇めよ……。我はこの世界最強の存在、最高の存在……』


 サタンは再び人類に絶望を与えんと語り始めた。語る時間はたっぷりある。ゆっくり人類を絶望で包んでやればよい──

 そう考えた時だった。



「──い───てん───ぇぞ!」



 光輝く鮮やかな天空に微かな雑音が交じる。聞き間違いかとサタンは耳を澄ませる。




「ダサい演説してんじゃねぇぞ!」




 今度ははっきりと声が聞こえた。この忌々しい声──サタンは声のする方の空を睨む。

 何もない空に針穴大の歪みが生じた。その穴はみるみる大きさを増し、人一人潜れるサイズにまで成長した。

 そしてそこから出てきた影が──



「勇者は不滅だ! ゾンビの如く何度でも甦る!」



 如意棒を掲げ、ビシッとポーズまで決めている。

 颯爽と勇者カヨが再び、魔王の支配する天空に参上した。



『何故だ……何故我最大の技を破ったのだ!?』



 サタンの巨体が動揺と驚愕で激しく揺れる。彼の全力を勇者は乗り越えた──これは事実上の魔王の敗北を意味する。


「お前には一生分かんねえよ! 私達の強さの源はな!」


 カヨは如意棒を巨大化させそれをサタンに振り下ろす。サタンは両手でそれをガードする……しかしその表情は苦悶で醜く歪んでいる。



「わたしは負けない!」


「故郷の同胞のために、負けられない!」


「勝てば官軍、負けは無しでござる!」


「…………!!」


「僕の雄姿を見ててくれ、世界中の麗しき女の子達よ!」


「さあ行くぞ! 勝利は俺達の目の前だ!」



 カヨに続いて次々勇者が飛び掛かる。彼らは魔王などもはや恐れていない。



『く、来るな! 散れ愚かしい人間めェ!!』



 サタンは必死に拳を振り回すがそんな悪あがきは誰にも当たらない。

 ナイトやハクサイ、アルカードの斬撃がサタンを斬り裂き、ミーシャの矢とケヴィンの槍、レイヴンの爪がサタンに突き刺さる。




『糞っ! 糞! 何故我は人間を敗れぬ!? 何故完璧な力を持つはずの我が矮小な下等生物に何度も何度も敗れるのだァ!!』


「一生悩んでろこの糞野郎めェェ!!」




 カヨの如意棒が巨大・巨大・巨大──サタンさえも凌駕するサイズに肥大する。カヨはそれを天空遥か彼方まで飛び上がり、それを真っ逆さまに──





『嗚呼ああああアアアアアアアアAHHHH────!!』





 サタンの断末魔が世界中に轟いた。

 しいん、と辺りがさっきまでの熱狂が嘘のように静まり返った。


「やった……勝った……! 勝ったのか!」


 カヨの声を皮切りに、勇者達が歓声を浴びる。



『勇者達ばんざーい!』

『いいぜお前ら! 最高だァ!!』

『脱ーげ、脱ーげ、カヨちゃん脱ーげ……』

『まさしく彼らは英雄だ! 偉大な勇者だ!』



 カヨの耳に聞こえないはずの世界中の人々の歓声が響く。この光と勝利の余韻が起こした小さな奇跡だろうか。

 だが今はどうでもいい。この最高の気分さえあれば十分だ。

 カヨは笑い、世界中の人々に両手を振る。世界は湧き立つ、カヨの挙動に。慣れない投げキッスまでカヨはした。まあこれの反応は芳しくなかったが。



「さあ、帰ろう」



 カヨは勝利の余韻に浸る一同に呼び掛ける。勇者達は頷いた。

 そして再び地表に戻る事を念じ始めたその時だった。



『怨……』



 世界中を照らした天空の光が一箇所に収縮され、喋り始める。

 その声はまさしくサタンのものだ。

 光は顔になった。顔は口を開く。大口を開ける。


『怨、怨怨怨怨怨怨怨怨……』


 再び漆黒に包まれた世界で、その顔だけが輝きを放ち続けている。

 まるで真夜中の太陽だ。だがその台詞は人々を希望で照らす太陽とは真逆のものだった。



『我は気付いた……! 負けるのならば食らえばよい! 貴様ら全員食らって道連れにしてやるのだァ!』



 顔は大口を開けすぎて裂けてしまった。だが口は広がり続ける。みるみる夜空が魔王の口に代わり、世界を飲み込もうとする。


「そんなのありかよ……」


 カヨの顔が青ざめる。せっかく勝ったと思ったのにそれはぬか喜びだった。

 サタンは自我を失い、全生命を懸けて人類に最後の絶望を送った。今度の絶望は、カヨ達の力が通用しそうにない。

 勇者達にできる事──それは迫る口を見る事だけ。



「手ならあるぞ」



 だがナイトだけはそう言って剣を抜いた。頼もしい言葉にカヨは期待の眼差しを向ける。


「マジか! それはどんな……?」


 カヨの言葉を遮るように、ナイトはカヨを見つめた。

 今までの冷たい仮面を脱ぎ去った、優しい顔で。今まで見せなかった彼本来の顔で。



「時間がない。みんな落ち着いて聞いてくれ」



 勇者達は黙り込む。誰もがナイトの一挙一動に注目している。


「奴は──サタンは贄を欲している。奴の腹部に憎き勇者が入り込み、内部から破壊すれば今度こそ奴は消え去るはずだ」


「なるほど! じゃあ早速奴の中へ──」


 カヨは全てを言い切れなかった。ナイトがカヨの腹部を殴り飛ばしたためだ。

 薄れゆくカヨの意識、カヨの頭には疑念がよぎる。


「何で…………」




「これは罪深い俺のせめてもの償いだ。俺の作戦は帰ってくる事を考えていない。だから俺一人でいい……最後にいなくなるのは俺一人で。

 勇者はそう何人もいらない……命を賭して魔王を討つ勇者は俺一人で十分なんだ……。

 みんな、逃げろ! 空は危ない──早くしろ!!」



 カヨはハクサイに抱えられ、どんどん下っていく。ナイトが真っすぐ口に向かっていく中、勇者達は何も言わず地表に降りていく。


 ──何故だ!? 何故……みんなで行けば可能性はあるかもしれないのに何故!?


 カヨの目に閃光が飛び込む。口はナイトを飲み込むと、急に苦しみだして呻き声をあげ始めた。



『悔しい悔しい憎憎憎憎……! 一人しか取り込めないぐううう──暴れるなァ勇者めェ──くそおおお怨憎怨憎怨憎ゥ!!』



 口が地を震わす咆哮を上げた。最後の叫びと共に地表から何かが次々浮かび上がり吸い込まれていく。


 それは魔王軍の魔物達だった。彼らも主と共に元の世界に還っていくのだ。

 カヨは「バカヤロー!!」と吠えたが、それすら魔王の咆哮にかき消され届く事はなかった。

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