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第十節 棒の勇者?、with他の勇者(下)

「……良かった。てっきり全く話が通じない奴だと思ったぜ」


 戦闘体勢を解いたレイヴンに安堵した様子で、ピーターが近づいた。ハクサイの背に隠れる事は忘れないで。


「話に応じて貰えてありがたいでござる。して、その理由とは……?」


 レイヴンは眉間にしわを寄せながらも、言葉を紡ぐ。


「…………俺達の故郷は、エストー帝国の南にある島国だ。俺と隻眼のダン、銀髪のアルカードはそこの国の兵士だった……。

 島国だから外から恐ろしい魔物がそんなに来る事も無く平和に暮らしてたんだ。だがある日、島に凶暴なワイバーンの群れが現れたんだ……」


 レイヴンの目はハクサイやピーターを捉えず、遠くの何処かを見ていた。何かを懐かしむかのように遠い目で。


「俺達は見慣れないワイバーンに中々苦戦した……。しかしその時一人の少女が現れてワイバーンを一匹残らず射ぬき、全滅させたんだ……。

 そしてその時の少女があの糞尼と言う訳だ──」

「ちょっと待った!」


 レイヴンの話に半ば強引にピーターが入り込んだ。


「それじゃミーシャは何も悪くないじゃないか!?」


「人の話は最後まで聞け……」


 ピーターの疑問にレイヴンは苛立った様子を浮かべつつ返答する。



「あの女が祖国を救った時はそりゃ俺達国民は皆手放しで喜んださ……、国を救った英雄だからな。

 だがその後がいけなかった……。奴は内政に強引に入り込もうとしてたちまち国中から反感を買った。

 そしてあれよあれよと言う間に国外追放された……はずだったんだ……」


 そこでレイヴンは大袈裟にため息を吐く。遠くを見つめた瞳に怒りの火が灯る。


「女が去った翌日に国王やその血族が皆殺し……、そして更にその翌日の夜……謎の影集団が島中を襲ったんだ……!」


「影集団!」


 ピーターの脳裏にヨトキ城で以前見た悪しき影が思い浮かぶ。奴もたしかヨトキ襲撃の時に現場にいた。 隣を見ればハクサイにも思い当たる節があるのか険しい表情を浮かべている。



「俺達三人はそこで勇者に目覚めた。訳分からんジジイに告げられてな……。

 そして城に向かい国王の無残な死体を見た……、そしてその死体には沢山の矢が刺さっていた。

 あの女がワイバーンに向けて放った矢と同じ……な」


 そこまで聞かされて、ピーターとハクサイは唖然とする。全く口が動かない……。


「俺達にはあの影集団を倒し切る事は出来なかった……。

 結局国は壊滅、朝まで生き残れたのは勇者として目覚めた俺、ダン、アルカードの三人だけだったのさ…………」

「だったら! 俺達他の勇者に相談してくれれば! そうすれば──」




 ピーターはそこで口をつぐむ。彼は勇者では無いのだ。


「それに関しては済まないと思ってる…………、冷静さに欠けて関係ないお前達にまで当たり散らしてしまった……。

 あのガキも、あの女に騙されているだけだと思いながら……怒りを押さえきれなかった……」


 レイヴンが俯き拳を握り締め、震えているのは怒りからか、それともやるせなさからか。


「いずれにせよあのミーシャというおなご……詳しく調べる必要がありそうでござるな」


「ショウの身も心配だ、行こう!」


 ピーターはハクサイにそう促すと先に向かったショウ達の元へ駆けていった。

 ハクサイはレイヴンを見つめ、


「拙者は……決して貴殿を完全に信用した訳ではござらん。不審な行動を見せたその時は…………、容赦無く斬るでござるよ!」


「ああ、急ごう……。怪しいと感じたら背中を貫いて貰って構わん……」


「心得た」


 ハクサイも素早い身のこなしのレイヴンに続き、向かった。ショウの安否、ミーシャの正体に思いを馳せて……。



・


 優美且つ強大な城塞都市ヨトキも街外れは汚い。

 低所得層が住むスラム街……夜中はいつも誰も彼もが死んでいるかのように静かなこの街並を、黒髪の少年と、明るい茶髪の美しい青年が駆け抜けていた。


「ここから物音がしたのですが……」


「待って! この奥から微かに聞こえる……この音は……打ち合い! 戦闘だ!」


 言うが速いかケヴィンがスラムの奥へと走る。ショウも息を切らしながら後に続く。




「貴様は我らを覚えてないだろうがな! 我らは覚えているぞっ! 貴様の悪業をォ!」


 隻眼の勇者ダンの声がこだまする。そのおかげでケヴィンとショウは易々と現場にたどり着く事が出来た。


「知らないわよ! わたしは確かにあの国を救った! 国王に嫌われたのは事実だけどすぐに出てったわ島からは!」


「ならば国王の死体に刺さった矢はなんだ! 貴様が放ったものだろう!」


「言い掛かりは止めて……! わたしは勇者よ! 断じて魔王の手先じゃなぁぁい!!」


 怒りが頂点に達したミーシャの矢が隻眼ダンの膝に刺さった。ダンはバランスを崩し倒れこむ。


「──!」


 隠れていた銀髪のアルカードがミーシャに背後から鎌を振るった。

 ミーシャはそれを躱し至近距離から手早く矢を放つ。矢はアルカードの右肩に深々と刺さった。アルカードは痛みでうずくまる。

「貴方達がいけないんだわ……、勝手な言い掛かりつけて攻撃してきて……。

 わたしだって、こんな事したく無いけど……仕方ないわ!」


 ミーシャの矢がうずくまるアルカードの頭部に向けられる。そして十分に力を込めた矢はそのまま放たれ──


「止めて!!」


 飛び込んだショウの背中に刺さった。アルカードはただただ唖然としている。


「──ショウ!!」


 ミーシャが放心してる隙にケヴィンが手早く弓を取り上げる。ミーシャが驚く間もなく首筋に槍が突き付けられた。


「安心してくれ、僕はショウ君の味方だよ。本当は女の子にこんな事したく無いんだけどね。

 …………どう? 少し落ち着いた?」


 優しい声でケヴィンはミーシャに語り掛ける。ミーシャは事の次第を悟り、急に震え出した。


「そこのがっしりした貴方も僕の次くらいに綺麗な貴方も少し落ち着いてくれ、話し合おうじゃないか……」


 ケヴィンはダンとアルカードに同様に優しく語り掛けた。


「とりあえず手当てを……、ショウ君はミーシャちゃんと話してあげてくれ」


「はい!」


 ケヴィンはポーチから包帯を取出し、傷が深いアルカードの方へ向かう。

 ショウは崩れ込んだミーシャを受けとめ、笑いかけた。


「わたしは何もやってない……やってないわ! ただみんなを助けようとしただけ。勇者として当たり前の事をして何がいけないの!?」


 ミーシャは涙を流しながら、ショウの両肩を掴み叫ぶ。未だ興奮が冷めきっていないようだ。


「分かっています。

 ミーシャさんが無実だって僕は信じてます……だから、だから安心して……」


 そういいショウはミーシャを抱き寄せる。ミーシャもそれにならい、ショウに身を委ねた。




 二人の勇者ダン、アルカードの二人の応急処置が終わるとケヴィンは改めて、彼らとミーシャを対面させた。


「双方くれぐれも冷静にね。僕達も事情を知りたいし……」


 ケヴィンが間に入り念入りに前置きを置く。彼の持つ槍をプレッシャーに双方は話を始めた。


「我は貴様を許せない……どうしてもだ!

 我が祖国を滅ぼし数多もの同胞達を血に染めたその罪、一生消えんぞ!」


 ダンは手こそ出さないもののやはり激しい剣幕で殺気をふりまく。アルカードも黙って頷く。


「事件のショックでこのアルカードは口が聞けなくなったんだ……貴様にこのやり切れ無さが分かるのか!?」


 アルカードはただじっとミーシャを睨む。美しい緑の瞳に殺気が宿り、より彼の美麗さが際立つ。だが同時に深い悲しみと怒りも感じられる。

 ミーシャも強い意志を持って見返す。濡れた瞳から滲みだす眼光は十代の少女のものとは思えない。



「おーい! お前らあぁ!」



 その時、ピーターを筆頭に黒ずくめのレイヴン、悠々と駆けるハクサイがようやく追い付いた。

 三人も交え、八人で話し合いになる。


「わたしは何もしてない……! ただあの島の人を救っただけなのに。わたしが……」


「しかし証拠はいくらでもあるんだ。貴様はもはや言い逃れ出来んぞ……!」


 一向に埒が開かないダンとミーシャの対話にケヴィンが頭を捻る。そして、


「……みんなはどちらの言い分を信じる?」


 とハクサイとピーター、ショウを見て尋ねた。


「僕は……! もちろんミーシャさんを信じますっ! 貴方達三人がミーシャさんが直接何かしたのを見たのでなければそれは証拠にはなりえません!」


 真っ先に切り出したのはショウだった。ミーシャは彼を見て嬉しそうに目を細める。涙も乾いたようだ。


「拙者は……この者達を信じるでござる」


 意外にもハクサイはレイヴン達の肩を持った。

 ショウの顔が驚愕に歪む。


「そんなハクサイさん……どうして!? 彼らは急にミーシャさんを襲ったのに……」


「確かにこの者達の行動は冷静さに欠けていたやも知れぬ……。

 しかし、祖国を滅ぼした者を是が非でも討ちたくなる気持ち……拙者には痛く分かるでござる」


 そう言ったハクサイの目にも強い輝きが宿っている。


「でも! ミーシャさんが犯人だなんて証拠は何処にも!?」


「行動や理念……拙者には彼らが悪人だとは思えないでござる。

 もし仮に彼らが悪人ならば、ショウ殿を殺してでもすぐにミーシャ殿を手に掛けたはず……。

 それをせずあくまでミーシャ殿のみを狙う姿勢……やはり彼らが正しいと拙者は思うでござる」


 ハクサイから意外な支持があった三人は驚きで顔を見合わせ、頷き合う。


「うーむ、僕としては可愛い女の子を信じたいけどなあ。……ピーター君は?」


 ピーターの方向に七人の視線が集中する。ピーターは頭を抱えて唸った末、


「どちらが正しいかは現時点では断定不可です……。こういう時は…………、とりあえず全員ブタ箱にぶち込みましょう!」


・


 ヨトキ城地下。かつて死体が散乱していたこの地下牢には未だ血生臭い跡が残る。

 特例措置により、囚人達は全てシガヒ王国軍の兵力、または労働力となってしまい今や牢には誰もいない。


「やはりこれはやりすぎなのでは……!」


 ミーシャの肩を抱くショウが言う。その瞳には悲しみが籠もっていた。


「まあ気持ちは分かるが……、こいつらは信頼出来ない以上仕方ない。この牢は結界が張られてるから脱走される心配もないだろ」


 ピーターに諭されてようやくショウは口をつぐむ。ミーシャは名残惜しそうにショウを見ていたが、


「ショウ……─────」


 耳打ちをするとしぶしぶ牢の中へ足を進めた。


「……俺達を信じてくれとは言わん……、だが、あの女にだけは心を開くな……。

 言いたい事はそれだけだ……」


 レイヴンは素顔の知れぬ黒頭巾の奥の瞳を向けピーターらに告げると、おとなしく牢に入っていった。

 ダン、アルカードもそれにならう。


 牢を後にした四人はセシローに報告しに行く事にした。ショウは先程よりは随分落ち着いたが、表情には未だ不満が残っており、時折ため息を吐いている。


 王室のドアを前にハクサイとケヴィンの二人は固まる。彼らは国王と直接会うのはこれが初めてなのだ。


「そんなに固くならなくても大丈夫だぜ。威厳無い奴だし」


「そうは言ってもね……」「やはり緊張するでござる……」


 二人が緊張で顔を強張らせる様を見てピーターはほのかに笑う。二人もそれに釣られて顔を綻ばせた。

 しかしショウは黙りこくったままだ。心なしか三人から距離を取っているように見える。

 ピーターが扉を開けようとした時、


「すいません、少し一人にさせてください。

 今の僕には冷静に状況を説明できませんし、何より心の整理がつきません……本当にごめんなさい」


 言うが早いかショウはピーターが取りつく島もなく、小走りで下り階段へと向かっていってしまった。


「ああ、おい! ちょっショウ!?」

「一人にさせといてやろうよ……」


 追い掛けようとしたピーターの肩にケヴィンの手が置かれた。優しい顔でケヴィンが語り掛ける。


「僕にも分かるさ、恋の苦しみ葛藤ぐらいは……。こういう時は一人にするのが一番、用事を済ませたら迎えに行ってやったらいいさ」


 そういうケヴィンには妙な説得力があり、ピーターは押し黙る。


「分かった、一人にしてやろう」


 ピーターの言葉にケヴィンは安堵した表情を浮かべた。


 ついにピーターがドアノブに手を掛ける。背後で二人の勇者の息を飲む音が聞こえた。


「国王~。二人の勇者を連れてきたぜー」


「失礼致します」「失礼するでござる」


 小慣れたピーターに続き、ケヴィン、ハクサイが扉を潜る。


「やあピーター、あれ、ショウはどうしたの?」


「「子供!?」」


 書類を眺めていたセシローが来訪者を見て微笑む。目の下にくまが少し出来ている。仮眠もまだ取っていないようだ。


「しつれいだな……、子供だなんて──」

「驚いたでござる! まさかかの大国、ヨトキ王国の長がこんな乳飲み子だったとは……!」

「乳飲み子じゃないよ! 流石にこのとしでぼ乳はのまないよっ!」


 深刻な顔で驚いたハクサイにセシローが突っ込む。


「元気な子だなあ~」


 ケヴィンが笑う。先程の緊張した面持ちはどこかに行ってしまったようだ。



「で、ピーター。ようけんはなんなんだい?」



 ふと思い出したかのようにセシローがつぶらな瞳をピーターへ向ける。その瞳の下にある不釣り合いなくまは見てて痛ましかった。


「ああ、それなんだが……」


 ピーターの口から勇者会合の出来事が語られる。


「──まあそういう訳で今、四人もの勇者を投獄させてるんだが……」


「なるほど。重大なもんだいだね……。

 せっかく勇者がこのヨトキに七人も集結しているのにその内半数いじょうが使えないのはきびしいな……」


 セシローが難しい、エルザがいた頃には見せなかった表情を浮かべ腕を組む。


 もっともセシローの言い分は正しかった。セシローは近々行われる各主要国家の面々との対談によって、魔王軍への対応を決定する手筈になっている。

 その際主戦力となる勇者達の内半数が使えない──しかも魔王軍のスパイかもしれない勇者が交じっている。これはともすれば結託する予定の他国への信頼にも関わる。

 もし仮にシガヒ王国は魔王軍に寝返ったなどと噂になり内輪揉めになってしまったら──もはや目も当てられない。


「とにかく四人の勇者の件を早急にかいけつしなきゃ……、カヨにも連絡してあげてくれ」


「分かった……」


 ピーターが力強く頷く。そしてそのままハクサイやケヴィンと共に退出しようとした。




「ピーター!」




 が、セシローが突然大声を出してピーターを引き留めた。


「その……感謝してるよ。僕に協力してくれて。今回はかなり厳しい状況だけど僕は君たちをしんらいしてるからさ……だから」


「ああ、カヨとショウにも伝えとくよ。あんがとな…………セシロー」


 そう言って微笑むとピーターはセシローの前に行き、少し躊躇っていたが意を決して彼の頭を撫でた。

 セシローは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに目を細めこそばゆそうにした。口元に淡い笑みが浮かぶ。そしてピーターから離れるとハクサイとケヴィンの前に立ち、


「ハクサイさんにケヴィンさんだったかな……?

 魔王軍をむかえるにあたってのキーマンとなるのはあなた達です。僕には後方でサポートするくらいしかできませんが……、どうかよろしくお願いします」


「言われなくとも分かってますよ」

「我が国の君主からお願いされるとは感無量でござる……!」


 二人の遠方よりやってきた勇者をねぎらい頭を下げたシガヒ王国国王陛下は、ピーターに撫でられた時とは別人のように風格を備えていた。

 王室を後にした三人は外へ出てショウを探す。


「おーい! ショーウ? どこだあ?」


 ピーターが辺り一帯に響く大声で叫ぶ。もはや時刻は零時を過ぎて、復旧作業に防衛にと多忙なヨトキ市民は既に眠ってしまっているため誰からの反応も無い。

 市街地へと進んで見渡ずがやはりどこにもいない。

 ブッキ町、高級住宅街、ホテル街、スラム街……。ヨトキの隅々まで探したがショウはおろか人っ子一人見当たらない。


「もしかして病院に行ってるのか?」


 ピーターの足がカヨの入院する病院に向く。



「おーい大変だ! ピーターすぐに!」



 遠くからケヴィンの声が聞こえてきた。方角は病院の反対……、


「何かあったのか!?」


 ピーターは脚力をフル稼働して病院の逆方向のヨトキ城へと走り出した。


 城に戻ると、城門でケヴィンとハクサイが待っていた。二人に促されピーターは地下牢に向かう。



「──!」



 ピーターの目がそのまま裂けそうなくらい大きく見開かれた。手前側の牢には三人の島国出身の勇者達の寝息が聞こえるだけだ。

 ……そしてもう片方の向かいの牢屋。


「──ミーシャが、いない……?」


 開かれたままの扉がキィキィ間抜けな音を立てて風に揺れている。

 ミーシャが、逃げた? そしてショウもいない。

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