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海老フライの尻尾物語  作者: 紙彌成
冴えない尻尾
6/8

てんぷら体験

日頃の弁当のような閉塞感が襲う。

「私のカリッとした食感がご飯の湿気で台無しだ。」

持ち主は、今日も弁当の中に、住んでいる。

「たっぷりの天つゆのてんぷら弁当なら、ちょうどいいぐらいの蒸らしになるな。」

弁当の持ち主が、たまにはてんぷらを食べたいというので、仕方なくてんぷらになることにした。今日はふだん着ている、パン粉ではなく、上質な小麦粉の衣を纏い、準備はできた。

「今日はカリッと」

「間違えた。今日はサックと仕事をかたずけに行きますか。」

近頃の憂鬱な気持ちから解放されて、今日はサックと決まるはずだった。


「今日お世話になります。天つゆです。」

「やばい」甲太は心の中で叫んだ。

「どうぞよろしく。」

「ケチャップさん、俺は浮気はしません。これは、仕事なんです。」

そんなばかなことを考えていたら、天つゆさんに心の声が聞こえてしまったのか、

「私なんかよりあっさりした、塩がいいなんて言いませんよね。」

どうしたらいいんだ。仕方がないこれも仕事の内だとあきらめた。

「あなたほど、私と合う方はおられませんよ。」

お世辞を言ったのに彼女は、ベタベタと引っ付いてくる。鬱陶しい。まるで梅雨のような奴だ。じとじと、ベタベタ。

とうとう、彼女の妖艶さに、騙されそうになった時、私は最後の良心を持って、ご飯に天つゆを押し付けた。純真なご飯が真っ黒に染まっていた。

「すまない。ライス」

私もこんな風になるところだったのか。

ふやふやになったご飯を羨ましく思いつつも、私は、最後の砦は守った。

「ふぅ。」

と、息を吐いたのもつかの間、今度は厄介にも持ち主が塩をかけようとしているではないか。

そこにどこからともなく、声が聞こえてきた。天の声だ。

「丸々株主様塩分は控えておかれた方が、お体のためですよ。」

最近の減塩ブームによって、私は救われたのか。

なんと皮肉なことか。


小さくて可愛らしい、塩さんに水分を奪われるところだった。勿論みんなのアイドル塩さんを独り占めにしたりはしないが、私はケチャップ一筋なんだ。彼女のことを思うと、油ぎれの悪い気持ちになった。

「いろんな女に色目使っちゃって。」

「お前の方がいろんなやつとあってるじゃねーか。」

昔付き合ってた、マヨネーズのことを思い出す。

「健康ブームで油物は控えろだと。ふざけるな〜」

昔のことをいろいろと思い出した。


「ヘルシー油に切り替えて、揚げ物同盟結成だ。」

「オリーブとゴマ、ナタネにココナッツオイル。」

こんな懐かしいことを思い出すなんて、俺も焼きが回ったのかな。美女二人に尻尾を伸ばして、

「俺も、モテ期が来たのかな。」

いや、そんなはずはない。こんなことを言うなんて、舌が油で、滑らかになりすぎたようだ。

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