5
ファミレスを出てから3時間がたったであろうか。俺はもう時間を確認するのが馬鹿らしくなってきた。
ヘヴンさんは目についた店に片っ端から入り、ひとしきり悩んで出てくるということをもう何十回も繰り返している。しかもまだ1着も服を買っていない。しかも渋谷にはまだまだたくさんのファッションビルがある。あれにも全部行くのかと思うと、一体何時間かかるのか分からない。
最初の方こそ俺も鳥羽も、ヘヴンさんの選ぶ服を見て意見を言っていたのだが、3軒めで音を上げてしまった。今は二人して店の前で彼女が出てくるのを待っているだけである。
鳥羽もイライラしているのだろう。腕を組んで貧乏揺すりをしている。
「なんか大変だよなー」
「何がでござるか?」
鳥羽が驚いたようにこちらを見た。
「いや、だからさ、女の人の買い物に付き合うのって大変だろ?お前もイライラしてるみたいだし」
「ああ、これは」
鳥羽は腕組みをほどいて両の手を見る。
「竹刀がないとどうしてもイライラしてしまうのでござる」
そう言ってちょっとはにかんだ。
「そんなもんかね」
「そんなもんでござる。お!」
ヘヴンさんが店から出てきた。しかし、彼女の両手には何も握られていない。今回も不発だったようだ。俺と鳥羽は黙って、歩き始めたヘヴンさんのあとを着いていく。
次の店でようやく何か買ったと思ったらハンカチ一枚だけで、それを買うのにも結構な時間を費やした。その次の店も、そのまた次の店も何の収穫もなく、散々悩んでいたかと思ったら一回見た店に戻って何か買っていたりした。
やがて繁華街の端っこが近づいてきたらしく、服屋よりも飲食店が多くなってきた。小さな雑貨屋を見逃さずに入っていくヘヴンさんの後ろ姿を見送り、俺は鳥羽に話しかけた。
「おい、あれ見ろよ」
「おお、でかいでござるな。これがトーキョーの……」
俺らが見上げた先には、東急ハンズがあった。
「このビル全部がハンズでござるか」
「ああ、何が売ってるんだろうな」
俺はちらりと後ろを振り返る。ヘヴンさんがアクセサリーを一つ取っては眺め回して戻し、隣のものを見ては、また前見たものを手に取ったりと、熱心に選んでいる姿が見える。この調子だと三十分くらい余裕でこの店にいるだろう。
「鳥羽」
俺は指を3本立てた。三十分の合図だ。
鳥羽は無言で頷いた。




