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「なんか、ろうそくの炎を毎日見つめていたら炎が操れるようになったらしいでござる」
「それだけ?」
「それだけでござった」
それだけの話しを、よくもまあ、あれだけ長く話していられるものだ。俺は呆れた。ついでにため息も出た。
「まあ、ヘヴン殿も渋谷にきてテンションあがっているみたいでござるから、まあ、多めに見るでござるよ」
「お前だって楽しそうに話してたじゃないか」
「てへぺろ!」
寒気がした。
鳥羽は舌を出して後頭部をに手を当てる仕草をやめると、照れ隠しかメロンソーダに口をつけた。
「うわ!めっちゃあまっ!」
「ぶふっ」
鳥羽は水を飲んで甘さを中和した。
「まあ、これはこれでいけるでござるな」
「まじかよ。こんだけ入れたんだぜ?」
俺はテーブルの隅に隠していたガムシロップの空容器を見せる。
「拙者甘党でござるからな」
「そんなんで、正義の味方が勤まるのかよ。糖尿になっちゃうだろ?」
「糖尿上等でござるよ。拙者の理想とする武士も甘党で糖尿でござる」
「それって武士じゃなくて何でも屋だろ?」
「お。デウス殿、意外と話が分かるのでござるな」
前に、ヘヴンさんにも同じことを言われた気がする。こんな奴らと同類と見なされるのは、ちょっと、いや、かなり嫌だ。
不機嫌さが顔に出ていたのだろうか、鳥羽は話しを変えてきた。
「ま、まあ、タバスコじゃなくて良かったでござるよー。そこがデウス殿の優しさでござるな」
「タバスコだと色で分かるだろ?」
「うむ、あの色はなんと形容していいものか……」
「どどめ色だろ」
「どどめ色?そんな色があるのでござるか?」
「どんな色かは説明出来ないけどな」
「じゃあ駄目でござる」
鳥羽はそういうと、周りを見回した。
「それにしても、ヘヴン殿は遅いでござるな」
「そういえばそうだな」
俺は立ち上がった。さっきからちょっとトイレに行きたかったのだ。
「俺もトイレ行ってくる。なんかあったら分かるだろ」
怪しくない程度に女子トイレの入り口を横目で見て、用を足して、また帰りに横目で見てきたのだが、別段変わったところはなかった。しかし席に戻ってもヘヴンさんの姿はなかった。
「心配でござる……」
「いや、まあお腹とか壊してるのかも知んないし」
「それも心配でござる」
鳥羽は机を中指で叩きながらため息をついた。
「そんなに心配なら連絡すればいいじゃん」
「デウス殿、頼むでござる」
「いや、俺知らないし」
今の今まで、知ろうともしなかったのだ。
「拙者も分からんのでござる」
そうか、と一瞬納得しかけたが、鳥羽がヘヴンさんに名刺を渡していた事を思い出した。その翌日に、鳥羽が家にきたのだ。
鳥羽に伝えると、すっかり忘れていたようだ。
「なんて送ればいいでござるか?」
そう聞かれたので、俺は隣の席に移って手元を覗く。
「まあ、『大丈夫?』とかでいいんじゃないかな?」
「『大丈夫』、でござるね……」
もたもたと操作するので、イライラして携帯を取り上げた。
「俺が打つよ」
ささっと打つ俺を、鳥羽が尊敬のまなざしで見つめているが無視。送信ボタンを押すと、聞いた事があるような音楽がメロディーが流れてきた。
俺と鳥羽は並んで顔を上げる。
そこにはヘヴンさんが仁王立ちしていた。
「何してるの?」
「いや、遅かったから心配になって」
「ふーん」
携帯を一瞥する。
「具合とか悪いのでござるか?大丈夫でござるか?」
「ううん、別に。化粧直してただけだから」
女性のトイレと買い物は長いとどこかで聞いた事があったのだが、ここまでだったとは……。
しかしその後、後者の方がひどい事を、俺と鳥羽は身を以て知るのだった。




