↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大谷吉継 転生録 〜義は滅びず、再び剣を取る〜  作者: ひさめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/134

第089話:青獅子の空箱

ミセリアから届いた追加書状。

吉継は白霧境に流れ込んだ空箱を調べ、青獅子印の箱に隠された別の記録へたどり着きます。

 白霧境へ、ミセリアの追加書状が届いたのは夕刻だった。


 封は乱れていない。


 だが、紙の重さが違う。


 吉継はそれだけで、中にある情報が軽くないと分かった。


 エルネが書状を読み上げる。


「青獅子印の箱は出た。戻った。だが中身が違う。ベルナー・ロイスは連れ去られた。白い手袋の男が関与」


 部屋の空気が固まった。


 カドゥが腕を組む。


「箱が戻ったなら、盗みではないのか」


「箱を戻せば、台帳の上では何も減らぬ」


 吉継は机に置いた白い硝子片を見た。


「狙いは箱ではない。中身だ」


「中身とは何だ」


「まだ分からぬ。だから探す」


 チヨネが棚の上から顔を出した。


 ふん。


 もう探す気だ。


「ロウエン。白霧境に入った空箱、青い獅子の焼き印、同じ寸法の木材。どれか記録にあるか」


 ロウエンは帳面を抱えていた。


「すぐには。ですが、青綿会の倉を接収した時、王都規格の空箱がいくつか混じっていました」


「なぜ報告に上げなかった」


「空でした。焼き印も削られていて、ただの古箱だと」


 ロウエンの顔色が悪くなる。


「申し訳ありません。見落としです」


「責めていない。空箱は軽く見える。俺も、今なら疑う」


 吉継は立ち上がった。


「案内しろ」


 倉は白蝶城の外郭近くにあった。


 青綿会から押収した布、古い帳面、割れた壺、使える釘、使えない鎖。領の立て直しでは、捨てるものも記録する。


 その奥に、空箱が積まれていた。


 木の色は薄い。


 寸法はそろっている。


 角だけが、妙に丁寧に削られていた。


 チヨネが箱の側面を指で叩く。


 こん、こん。


 音が浅い。


「二重底か」


 吉継が短刀を差し込むと、底板がわずかに浮いた。


 中にあったのは、布ではない。


 薄い鉛板だった。


 板の表面に、細かな文字が刻まれている。


 エルネが息を呑んだ。


「これ、倉庫の封印番号です。箱の外ではなく、内側に記録してある」


「封印番号を隠して運んだのか」


「違います。これは控えです。正式台帳に残らない、裏の対応表だと思います」


 ロウエンが唇を震わせた。


「では、青獅子印の箱は、中身を替えられて戻されても、どの箱がどこへ行ったか別に追える」


「そうだ。盗人が自分のために残した道だ」


 カドゥが目を細める。


「親切な盗人だな」


「自分には親切。他人には毒だ」


 エルネは鉛板を慎重に並べた。


 番号。


 日付。


 荷の重さ。


 そして、短い略号。


「この略号、分かりません」


 吉継は覗き込んだ。


 王国文字は読める。


 だが、略号は別だ。商人の符牒か、役所の内輪言葉か。


 その時、アリスティが倉の入口から声をかけた。


「その印、見せてもらえますか」


「知っているのか」


「知りたくはなかったですが」


 アリスティは鉛板を見て、苦い顔をした。


「ヴォルガノン軍事帝国の軍需商が使う略号に似ています。鉄材、火薬、馬具、乾燥糧食。品名を隠す時に使う符牒です」


 部屋が静まり返った。


 王国内務庁の青獅子印。


 王都の予備倉。


 白い手袋の男。


 そして、軍事帝国の符牒。


 線が太くなった。


 太すぎる。


「帝国が絡んでいるのか」


 カドゥが低く問う。


「まだだ」


 吉継は即座に否定した。


「似ているだけで、帝国の証拠にはならぬ。ここで帝国と騒げば、相手が喜ぶ」


「なぜだ」


「王都が割れる。ミセリア殿の内務庁が帝国に倉を売ったと叫ぶ者が出る」


 ロウエンが青ざめた。


「そんなことになれば」


「白霧境も巻き込まれる。吉継様が帝国の証拠を隠したと言われるかもしれません」


 エルネの声は震えていた。


 吉継は頷く。


「ああ。だから下手に騒ぐな。まずは、他に証拠がないか確認する」


「何を確認する」


「空箱の数。鉛板の番号。鉄粉の量。白い硝子片の出所。三日月亭の荷札。すべてを並べる」


 チヨネが袖を引いた。


 ふんふん。


 探す相手は。


「この箱を白霧境へ流した者だ」


 吉継は鉛板を布で包む。


「青綿会の残りだけでは、この符牒は扱えぬ。王都の倉と、帝国の商いを知る者がいる」


 アリスティが腕を組んだ。


「大谷殿。王国内でそれをできる者は限られます」


「推察でよい。名を出せ」


「ガリア家です。婚姻と倉庫と軍需、その三つに手を伸ばせる貴族は多くありません」


 吉継は目を伏せた。


 ガリア家。


 推察としては、あまりに噛み合う。


 だが、その名は、まだ断定として紙に書けない。


 書けば、敵もこちらを見る。


「ミセリア殿へ返書を出す。帝国の名は書くな。略号が軍需商の符牒に似る、とだけ書け」


「分かりました」


 エルネが筆を取る。


 カドゥは少し不満そうだった。


「敵の名が分かりかけているのに、斬りに行けぬのか」


「分かりかけ、だからだ」


 吉継は静かに答える。


「戦は、敵の名を叫んだ者が勝つのではない。敵の真意を突き、策によって戦意を挫く。それが勝利へ近づく道だ」


 カドゥはしばらく黙り、やがて笑った。


「本当に面倒だな。だが、よい。逃げられぬ形にしてから斬る」


「まあ、その認識でよい」


「分かっている。少しだけだ」


 チヨネが無言で箱の上に座り、白い硝子片を一つ摘まんだ。


 ふん。


 逃がさない。


 吉継は鉛板を見つめた。


 青獅子の箱は、空ではなかった。


 中にあったのは、敵の道だった。


今回は白霧境側の調査回です。

空箱の二重底から、王都の倉と軍事帝国の符牒がつながり始めました。


次回の展開が気になる!面白い!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや、広告下の【☆☆☆☆☆】の評価(カクヨムなら★)での応援をよろしくお願いいたします!皆さんの応援が何よりの執筆の原動力です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。