↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大谷吉継 転生録 〜義は滅びず、再び剣を取る〜  作者: ひさめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

148/149

第146話 汚された聖女

 大神殿からの召喚状が届いたのは、カタリナが王都へ入った翌朝だった。


 ジゼリアは封を切り、同じ文面を二度読んだ。


 保存聖油の会計を混乱させた疑い。病毒持ちとの不適切な接触。聖騎将としての適性を確かめるため、大神殿の審問へ出頭せよ。


「罠です」


 副官の聖騎士が、机へ拳を置いた。


「応じる必要はありません。騎士団千八百は、今もジゼリア様の命令に従います」


「だからこそ、行かなければなりません」


 ジゼリアは召喚状を畳んだ。


「私が兵を集めて拒めば、教団は病毒持ちに操られて反乱を起こしたと言うでしょう。信徒と騎士を争わせるわけにはいきません」


「では、せめて我々も中へ」


「大神殿の外で待っていてください。日が沈むまでに戻らなければ、ミセリア殿へ知らせるのです」


 吉継の名は出さなかった。


 まだ、隣へ立つとは決められない。


     ◇


 大神殿の正門で、ジゼリアは剣を預けた。


 白い回廊を進み、審問の場だと案内された大礼拝堂へ入る。そこに待っていた小さな人影を見た瞬間、険しかった顔が崩れた。


「お姉様!」


 カタリナが駆け寄り、その胸へ飛び込む。


 ジゼリアは驚きながらも細い身体を抱き留めた。


「カタリナ。なぜ王都にいるのですか」


「お姉様を助けるためなのです。今度は私が、お姉様の重荷を持ちます」


「何を言っているのです」


 カタリナの頭上で、八つの光輪が花びらのように回っている。


 礼拝堂の奥から、白金の法衣をまとった老司祭が現れた。その後ろには、杖を持つ高位司祭たちが並んでいる。


「ジゼリア。聖女の加護を、次代へ返してもらいます」


「私を呼んだのは、審問のためではないのですか」


「貴女の心は病毒に汚された。正しい裁きを受け入れられる状態ではありません」


 扉が閉まった。


 床の聖印が白く輝き、光の鎖がジゼリアの手足へ巻きつく。


「お姉様!」


「カタリナ、私から離れなさい!」


「大丈夫です。これは、お姉様を傷つけないための輪なの」


 カタリナが両手を広げると、八つの光輪がジゼリアの周囲へ降りた。


 光輪は身体を包み、暴れる力だけを封じていく。ジゼリアなら鎖を引きちぎれた。だが力を放てば、すぐそばにいるカタリナまで聖光の衝撃へ巻き込む。


「カタリナ。教団から、儀式の後も私は生きていると説明されましたか」


「聖女の任を離れて、静かな場所で休むと聞きました」


「生きていると、はっきり言われたのですか」


 カタリナの顔から、笑みが消えた。


「司祭様。お姉様は、儀式が終わっても生きているのですね?」


 老司祭は答えず、杖の先を床へ向ける。


「聖女の光は失われません。純粋な部分だけが、次代へ受け継がれます」


 カタリナの耳の奥で、甲高い音が鳴った。


 論証聖言(ろんしょうせいげん)。


 問いと答えが噛み合っていない。


「今のは、答えではありません」


「儀式を始めよ」


「待ってください! 私は、お姉様を殺すために来たのではないの!」


 高位司祭たちが一斉に杖を掲げた。


 床の聖印から光が噴き上がり、ジゼリアの胸元から白い糸のような魔力を引き出していく。


「やめて! 光輪よ、外れて!」


 カタリナが命じても、八輪聖環は動かない。


 床の術式が、彼女の光輪を儀式の一部として奪っていた。


 ジゼリアは苦痛に顔を歪めながら、それでもカタリナを見た。


「貴女は悪くありません。泣かないで」


「私が、お姉様を縛ったの……」


「知らされていなかったのでしょう。ならば、今から一緒に止めます」


 自分の命が削られている最中でも、ジゼリアは妹分を責めなかった。


     ◇


 王都のヴァルグレン侯爵邸へ、若い司祭が駆け込んできた。


 以前、高位司祭の会議でジゼリアを擁護した男だった。息を切らし、白い法衣の袖を泥で汚している。


「大谷様……聖騎将が、大神殿の地下礼拝堂へ連れて行かれました」


「審問ではないのか」


「加護を移す儀式です。第二聖女候補も中にいます」


 男は懐から、儀式書から破り取った一頁を出した。


 器より光を剥がし、残る肉を清める。


 その一文だけで、儀式後のジゼリアがどうなるかは十分に分かった。


「なぜ、俺へ知らせた」


「教団を守ることと、嘘で聖女を殺すことは違います」


 若い司祭は震えながらも、吉継から目を逸らさなかった。


 机の影が膨らみ、チヨネが姿を現す。怒ったように短刀を握り、大神殿の方角を指した。


「ああ。行こう」


 吉継が立ち上がると、イーナが薬箱から黒い軟膏を取り出した。


「聖属性の傷は治せない。でも、皮膚が焼けるまでの時間は延ばせるわ」


「十分だ」


「十分ではない。戻ったら、今度こそ寝台へ縛るから」


 イーナは怒りながら、吉継の首と両腕へ軟膏を塗った。


 ジゼリアは、しばらく自分の隣へ立たないと言った。


 それでも、見捨ててよい理由にはならない。


     ◇


 大神殿の地下へ続く石段には、白い光が満ちていた。


 一歩下りただけで、吉継の手の甲から煙が上がる。黒い軟膏の下で、皮膚が焼け始めていた。


 地下礼拝堂の奥から、カタリナの泣き声が響く。


「お姉様を返して!」


 吉継は刀へ手を掛け、閉ざされた白銀の扉を見据えた。


「まだ間に合う」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。