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ep20 メンズエステサロン春香、サンスト支店

「春香さん、いよいよやってきましたね……!」


ルミカが不安と期待が入り混じったような笑顔を向けてくる。


サンスト王国で一番栄えている繁華街。

春香達にとっては買い食いの街。その中心地に、「メンズエステサロン春香 サンスト支店」がついにオープンするのだ。


繁盛店となった本店から羽ばたく、初の支店。

その店長はルミカだ。


あの日、異世界に来たばかりで、右も左も分からない私に、最初に「ここで働かせて下さい!」と勝手に転がり込んできた頃が懐かしい。


そんなルミカが、今や一人前の施術士として、店を任せられるまでになった。


「春香さん……本当にありがとうございます!」


鍵を受け取ったルミカが、目に涙を浮かべている。


「そんな、泣くなって……」


春香は目を逸らして笑う。


……本当は、春香も泣きそうだった。


春香はルミカに、店の二階に住居スペースも用意していた。

それを知ったルミカは、ますます感激して泣きそうになっていた。


「新店舗だけじゃなくて、住むところまで……!」


「だって、お前が知らない街で住む場所がなくて困ったら大変だろ。店長なんだから、ちゃんとここを守ってもらわないとな!」


春香は少し強がりを言った。


だって本当はルミカを置いて帰るのが寂しくて仕方なかったからだ。


もう一緒にのベットでで並んで寝ることはないんだな、と思うと、胸がぎゅっと締め付けられる。


「……春香さん、寂しいです」


ルミカもぽつりと言った。


「私もだよ。でもさ、これはルミカが一人前になったってことだから。……おめでとう」


「はい!」


そう言って笑ったルミカは、やっぱりまだ少し子供みたいで。

でも、頼もしくもあった。



オープン初日。春香はルミカと一緒に、サンスト支店で客を迎えた。


支店オープンを待ち望んでいた冒険者や商人たちが早速詰めかけ、施術室はフル回転だった。


「ルミカ、次のお客さん!」


「はいっ!」


手慣れた返事。

だけど、時折私と目が合うと、にこっと笑ってくれる。


ああ、この笑顔、もう毎日見られなくなるんだな……。


夕方、ようやく客足が落ち着いた時、私はルミカにあることを切り出した。


「なあ、店長になったわけだし……源氏名、どうする?」


「え?」


「名前変えてもいいんだぞ? なんかこう、もっと華やかなやつに」


春香は言ってから、自分でも「何言ってんだろ」と思った。


でも、ルミカは首を振る。


「私、ルミカがいいです」


「そっか」


「だって、春香さんと一緒に始めた時からずっとルミカでしたから。

それに、私、ルミカのままで、ちゃんと春香さんみたいに、一人前になりたいんです!」


「……分かった」


春香は笑った。


それでいい。

ルミカはルミカだ。

自分を見失わず、立派に育って欲しい。特別な存在だ。



初日の夜。私たちは二階の住居スペースに布団を並べた。


「春香さん……今日だけ、一緒に寝てもいいですか?」


「バカ、最初からそのつもりだよ」


並んで寝るベット。


「明日からは、一人なんですよね……」


「そうだな」


「寂しいなぁ……」


「……うん」


2人で並んでベットに入り、手を繋いだ。


もう寝返りをうったらルミカがいる、そんな日常は戻ってこない。

分かっているけど、今夜だけは、いつもみたいに。



翌日。


仕事を終えると、本店に戻るため、馬車に乗った。


サンストの街並みを振り返る。

……置いてきちゃったな。


その夜、春香は久しぶりに一人でベットに入った。


寝返りを打って、無意識に左を見た。


……あ、いないんだった。


分かっていたのに、胸に穴が開いたような気持ちになる。


その頃、ルミカもサンスト支店の二階で、一人。


右を向いて、春香がいたはずのスペースを見つめていた。


「……春香さん」


名前をつぶやいて、ルミカは目を閉じた。


それぞれの場所で、春香は左に。

ルミカは右に。


お互い、そこに誰かがいるはずだった場所を見ながら、眠りについた。


メンズエステサロン春香 サンスト支店、ここに開業。


寂しさを抱えながらも、春香たちはまた、一歩前に進んでいく。


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