ep19 異世界で羽を伸ばす~ユノフェルン温泉旅行記~」
「……もう働き詰めは嫌だ!」
朝から次々と訪れる客をさばきながら、春香ははついに叫んだ。
「えっ、春香さん!? 突然どうしました?」
「儲かってるんだから、たまには贅沢してもいいだろ! 慰安旅行だ!温泉だ!温泉旅行に行くぞ!」
「温泉旅行……?」
ルミカが目を丸くしている横で、受付を手伝っていたシルビアが「温泉……」と少し興味を示し、タオルを畳んでいたアルムも「耳まで浸かれるお風呂ですか?」と期待に満ちた顔を見せた。
春香は拳を握って宣言する。冒険者の客に聞いたのだ。
「癒しの里・ユノフェルン! 魔法の温泉郷だってさ。疲れが吹き飛んで、美肌効果もあるらしい。もうこれは行くしかないだろ!」
「行きたいです!」「私も!」「耳、浸かりたい!」
こうして、急遽『メンズエステ春香』は数日間の臨時休業を決定。
4人で慰安旅行に出ることになった。
馬車に揺られること半日。
途中、馬車を降りて山道を歩くこと3時間。
過酷な山道が続いた。
ようやく辿り着いたその場所は、噂以上の楽園だった。
「ここが……ユノフェルン……!」
辺り一面に広がる花畑。
風に揺れる草花がキラキラと光っている。
空気まで甘い香りに包まれていて、歩くだけで癒されそうだ。
「わぁ……!」
「きれい……」
「耳がピクピクします!」
ルミカ、シルビア、アルムも感動しきりだった。
宿は老舗旅館『湯宿フォルナハ』。
異世界なのに、まるで高級旅館みたいな落ち着いた雰囲気だ。
絨毯敷きの広間に魔法のランプが優しく灯っている。
出迎えてくれた仲居さんは、おっとりとした笑顔で言った。
「ようこそ、お嬢様方。ごゆるりとおくつろぎくださいませ」
私たちはもう、癒される気しかしなかった。
「うわぁ~ピンク色のお湯です~!」
最初に飛び込んだのはルミカ。
効能は疲労回復と美肌効果。
「すべすべです~!」
「そりゃ良かったな」
春香は隣で赤いお湯に浸かっていた。
これは血行促進、活力回復の湯。
「ふぅぅ……血行良すぎてのぼせそうだわ……」
湯けむりの向こうでは、シルビアが黄金色の湯に浸かっている。
「若返る……若返るかも……」
「元ニートのお姉さんが若返ってどうするんだよ」
一方、青いお湯に入ったアルムは耳まで浸かって、うっとりしていた。
「魔力、満タンです……」
夕食も豪華だった。
山菜の天ぷら、川魚の塩焼き、魔獣肉のステーキ。
異世界グルメのフルコースに、全員が無言で食らいついた。
「……あぁ、幸せ」
「ほんと……」
美味しいものを食べて、温泉に浸かって、のんびりする。
こんな贅沢が異世界でできるなんて思わなかった。
そして夜。
浴衣のような部屋着を選び、4人でゴロゴロしながらおしゃべり。
「春香さんって、なんでそんなにお金好きなんですか?」
「こっちに越して来て、最近はそんなにお金って必要無いんじゃないかとも思ってるよ。
でも今は必要なんだ。あんた達を養わないといけないしね。
まぁ今日は、みんなでご飯が食べられる、温泉に来れる。それで十分だろ」
「春香さん……!」
春香は久しぶりの酒を飲みながらしみじみと思った。
「これが、異世界で稼いだ金の使い道ってやつか……」
ルミカが笑って、「また来たいですね!」と言う。
シルビアも「本、いっぱい買うのもいいけど、こういうのもいいですね」と頷いた。
アルムも「耳、ずっとポカポカしてます」と嬉しそうだった。
小さくうなずく。
「また来ような、絶対」
こうして、異世界慰安旅行は最高の時間になった。
明日からまた頑張れる。
そんな確信を胸に、私は心地よい眠りに落ちていった。




