ep18 本指名、それはそれは懐かしき響き、それは最上の評価
朝から「メンズエステ春香」は賑わっていた。
常連客も増え、新人2人も少しずつ馴染んできた。
春香は施術しながら、ふと考える。
(最近、店回るの早くなったな…人手が増えたからか)
でも、それ以上に
「お疲れさまでした〜!」
「ありがとうございました!」
隣の部屋から聞こえる、新人たちの元気な声。
店全体に活気が出てきている。
「あれ…うち、いい感じじゃない?」
そんな春香のぼんやりした気づきが、この日、大きく確信に変わる出来事が起こる。
昼過ぎ、施術を終えたシルビアが控え室で大喜びしていた。
「春香さん!ルミカちゃん!聞いてください〜!」
珍しくテンション高めなおっとりお姉さん。
横ではアルムも「私もです!」と飛び跳ねている。
「何?宝くじでも当たった?」
「違います〜!」
「次回の指名、いただきました!」
春香の手が止まる。
「え、本指名?」
「そうなんです〜!お客さまが『次もシルビアさんで』って!」
本指名。
それは、客が「また同じ施術士を指名したい」と言ってくれる、ある意味“施術士として認められた証”。
現実世界で風俗嬢だった夏希にとっては最上の評価なのである。本指名の数で嬢のヒエラルキーが決まると言っても過言ではないのだ。
「私もです!この前のお客さまが、『またアルムちゃんお願い』って!」
アルムも目を輝かせて言う。
「おお…!」
春香はじわっと胸が熱くなる。
「こいつら、ついに…!」
シルビアは、ゆったりした手技で疲れを癒す「癒し系施術士」として。
アルムは、元気で可愛い接客と、真面目に覚えたリンパマッサージで「可愛い上に手技のうまいエルフ」として。
二人とも、ちゃんとお客に認められた。
「…すげぇじゃん、お前ら!」
「えへへ…」
「ありがとうございます!」
春香は心から祝福する。
そして同時に、心に強く思う。
(こいつら、もう見習いじゃねぇな)
夜、営業後。
控え室でみんなでお茶を飲みながら、春香はふと口にした。
「そろそろ、次の店考えようかなって思ってるんだよね」
全員が驚いた顔になる。
「次の店って…?」
「新店舗?」
「そう」
春香は、あえてさらっと言う。
「この店、もう人でギュウギュウでしょ。そろそろ別の場所にもう一軒出してもいいかなって」
「ってことは…誰かがいなくなる?」
ルミカが小さくつぶやく。
春香は、にやりと笑った。
「ルミカ、お前だよ」
「えっ…!?」
「お前に次の店、任せようかなって思ってる」
ルミカは驚きで目を丸くした後、少し黙り込む。
一瞬、嬉しそうに見えたけど。
「私…店長…」
「まぁ、まだちょっと先だけどな。でも、お前ならできると思う」
ルミカはぎゅっと拳を握った。
「…やります!」
でも、その表情にはほんの少しだけ影があった。
夜、一日が終わって2人きりになった時。
布団に入って、いつものように春香と並んで寝る。
すると、ルミカがぽつりとつぶやいた。
「春香さん…私、店長、頑張ります」
「おう、頼むぜ」
少し沈黙。
「でも…ちょっとだけ…寂しいかもです」
「え?」
ルミカがもじもじしながら言う。
「春香さんと、一緒にお店できなくなるの…ちょっと寂しいです」
春香は、一瞬戸惑う。
(そっか…そういえばこいつ、仕事クビになって家もなかったんだもんな…)
でも、だからこそ、春香は笑って言う。
「バカ、別にもう会えなくなるわけじゃねぇだろ」
「え?」
「オーナーだぞ、私は。ルミカんとこに遊びにも行くし、むしろお前が『春香さん、たまには帰ってください!』って言うくらい顔出すわ」
ルミカは、くすっと笑った。
「それなら…大丈夫です」
「だろ?」
「はいっ」
こうして、2人は安心して眠りについた。
(こいつを一人前にして…私はもっと上に行く)
春香は、「寂しい」と言ってくれるルミカの気持ちが、正直ちょっと嬉しかった。




