887.流行り病の兆候かも?
朝、カーテンの隙間から光が差し込む。目が覚めた私が身を起こすと、間で寝ていたレオンがごろんと転がった。寝る時間に部屋へ戻したら、嫌だと泣いたのよ。珍しいことなので、驚いて熱がないか確認したわ。感染して体調不良で不安定なのかも? と思ったの。
熱も喉の痛みもなさそうなので、甘えているのだと判断した。ヘンリック様は困った顔で私を見て、レオンに見えない位置で「どうする?」と小声で尋ねる。そこに微笑みを返し、抱き寄せたレオンに頬を寄せた。
「今夜は一緒よ」
いつもと違う状況が、怖かったのだと思う。ディが体調を崩したと聞いて、すぐにローズも熱を出した。吐いたし、部屋に閉じ籠ってしまう。その際に私やユリアーナも出てこなくなり、エルヴィンも行ってしまった。寂しいのと怖いのが飽和した。
膨らんだ不安が崩壊した原因は、きっとヘンリック様の抱っこでしょうね。普段はローズがいるから我慢していた、お父様のお膝よ。独り占めして、母親の私から食べさせてもらって。寝る段階になって別の部屋と言われて、感情が破裂しちゃったのね。
毎日ずっとは困るけれど、たまにならいいわ。ヘンリック様は私の教育方針を尊重してくれるので、今回も特に言わなかった。川の字で寝たのだけれど……興奮して寝つきが悪かったから、まだ起きないわね。すやすやと寝息を立てるレオンの頬に触れた。
「おはよう、リア」
「あなた……おはようございます」
ちゅっと触れるだけのキスをする。その下で眠るレオンが「う……ぅ」と声を立てて転がった。一瞬二人で固まって、でもまだ寝ていることに安堵する。それから顔を見合わせて笑った。
「仕事がしばらく忙しくなりそうで、お茶会まで休みが取れない」
「珍しいですね」
最近は仕事が分業化されて、負担が一人に集中しない形を取った。この仕組みで動き出してから、王宮で働く文官は交代で休みが取れて家庭円満だと聞いている。一緒に家族で過ごしたいヘンリック様やティール侯爵様の改革が功を奏した。
休みは取りやすくなったはずなのに。繁忙期かしら?
「大切なお仕事ですもの。残念ですけれど、頑張ってくださいね」
「ああ。ここ一週間ほど、体調不良で倒れたり寝込んだりする者が多くて……」
ヘンリック様が忙しくなった理由を聞いて、不安が過る。もしかして、流行り病なのでは? ディやローズはその走りかもしれない。
「君の懸念はわかる。王都を含めた周辺の都や街で調査させている。古い文献には、台風があった年から翌年にかけて、病が流行する記載があるそうだ」
王宮側も心配しているのね。念のために、予防のマスクや手洗いの知識を共有したほうがよさそう。事前準備はしておきましょう。懸念で済むなら、それが一番ですもの。




