888.病の流行とマスクの競争
朝食が済んだあと、ヘンリック様には四角いガーゼのマスクを渡した。作った分をありったけ持たせ、使い方と効果を説明する。頷いてすぐに装着したヘンリック様とベルントを見送った。イケメンだと、四角い平面マスクでも似合うのね。
フランクを通してお針子に確認したら、大量のガーゼマスクが完成していた。ガーゼの生地を指定したので、領地内で集めて送らせたそうよ。まさか街中で買い占めを? と心配したら、領地にあるお屋敷の在庫を融通してもらっていた。
私が心配する程度の内容なら、フランクやイルゼが先に気を回してくれるわ。本当に助かっている。後先を考えずに動くから、私の足元を守る人の存在は重要ですもの。
今後を考えるなら、領地内でガーゼの生産を増やしてもらうのも一つね。他の領地でもマスクの生産が始まったら、購入できなくなる可能性があった。かといって、買い占めるのもお行儀が悪いわ。本当に困っている人が、買えない価格に高騰する危険もあるから。
ヘンリック様を見送った玄関で、私の手を掴んだレオンが見上げてくる。視線が合ったら嬉しそうに笑い、無邪気にお強請りした。
「ぼくも! ちょーらい」
「どうぞ、あら小さな騎士様によくお似合いだわ」
レオンには少し大きすぎたわね。お針子から受け取ったばかりのマスクを、落ちないように耳ではなく後頭部で縛る。子ども用は紐を長くして、後で縛ったほうがよさそう。あとで提案しておきましょう。
「俺もそれしとくわ。風邪ひいてたら師匠に置いていかれそう」
それもあり得る。ユリアンの主張に笑いながら、もう一枚取り出して渡した。屋敷内で使う分として、五枚ほど確保したのだけれど……追加で作ってもらわないと足りないわ。それに立体マスクの案も、きちんと説明して頼みたい。
頼むほうが出向くのは当然、そう考えた私はイルゼを伴ってお針子の仕事部屋へ向かった。彼女達と顔を合わせ、立体マスクの説明をする。縫う場所と角度の調整、紐をつける位置も大切ね。ユリアーナも合流して相談した。
その間にユリアンとレオンは、鍛錬ごっこに向かった。もう「ごっこ」呼びは失礼かしら? 先日顔を合わせた騎士が、素振りや打ち合いの相手を務めている。二人とも立派な騎士見習いね。後で様子を見に行きましょう。差し入れ用のお茶と軽食の手配をイルゼに任せた。
今後、領地内に見本を渡して同じように作ってもらう必要がありそう。流行する病とマスク、どちらが先に届くかで未来が変わるでしょう。刺繍を施すのは後にして、ひとまずマスク本体ね。
「平民は平らなマスクのほうがいいと思うの。作るのが簡単だわ。貴族用にこっちの立体マスクを使ったらどう? 刺繍も映えるわ」
ユリアーナの意見と見本を参考に、お針子達はあれこれと意見を出し合って作業に入った。……私はお裁縫の技術がないから「ここは任せて」と妹に追い出される。レオン達の鍛錬を見に行く時間が出来たと思うことにするわ。




