883.幼子の可愛いチョンマゲ
予想していたけれど、ユリアンが来たのなら……当然、残りの人も顔を見せに来るわ。ヘンリック様とレオン、お父様も扉の前で声を掛けた。
「ろじぃ、元気、なった?」
「顔色が良くなったようで安心した。ああ、そうだ。バルシュミューデ公爵家に連絡して、ランドルフは休みにしてもらったぞ」
レオンの声に振り返ったローズが、抱っこから降りようと暴れる。だけど今は接触したらダメよ。うつしてしまうわ。ローズに「我慢してね」とお願いした。ほとんど聞いていないけれど、暴れてもまだ抑えられる年齢でよかったわ。
ヘンリック様の気遣いにも感謝した。だって、ラルフにうつして持ち帰ったら……大変なことになるでしょう? ヘンリック様が入室しないのも、王宮へ病を持ち込まないためね。ぐっと拳を握って我慢していた。
その点、お父様は入ってこようとして……隣を見て足を止める。ヘンリック様は自制心が利くけれど、レオンはまだ子どもだから。目の前でお父様だけローズに触れるのは、手が出せないレオンには残酷よね。「あとで」と口の動きで伝えた。
「お父様、あとでユリアンにレオンの鍛錬をお願いしていいかしら?」
頷くお父様の後ろからユリアンの「了解!」の声が聞こえた。まだそこにいたのね。ここから廊下にいる皆と話すのは、なんだか猫部屋を思い出すわ。猫達もこの屋敷に来た当初、ガラス越しに私達を観察していた。あれに近い気がするの。
「ぼく、たんれんする! つぉくなる」
「ええ、期待しているわ」
大好きなお兄ちゃんに駆け寄ることも出来ず、ローズは拗ねてしまった。文句のように唸りながら、ぐずぐずと顔を擦り付けてくる。これはローズだけじゃなくて、私も着替えが必要ね。皆が食堂へ移動するのを待って、侍女の手を借りて素早く着替えた。もちろん、ローズも同じよ。
部屋着に使う柔らかな生地のワンピースの私は、髪を後ろで三つ編みにしてもらった。これならば看病の際に髪をかき上げなくて済む。ローズは頭のてっぺんで結んだ。寝ても結び目が痛くないように、と思ったのに……ふふっ、立派なチョンマゲだわ。
幼い子のチョンマゲって、なんでこんなに似合うのかしらね。とっても可愛い。
「こりぇ……やっ」
「ローズは、嫌なの? 似合っていて可愛いわよ」
「かぁい?」
「ええ、すごく可愛いわ」
きっぱり言い切ったら、もじもじしている。似合うと言われて嬉しくなったのかも。その後も機嫌よく、パン粥を食べてくれた。このまま今日一日様子を見て、お医者様の診察も受けましょう。それで何もなければ、明日には皆と合流できそうね。




