881.嫌だと言われても困るわ
小さくなった型紙を、ユリアーナに見てもらった。結果として、きちんと伝わらない。説明しながらここを縫い合わせて、と印をつけた。
起きた侍女達は忙しく部屋を整え、私達の着替えを手配しに出ていく。ユリアーナはしばらく眺めた後で、捨てる予定のシーツの端をハサミで裂いた。刃を当てて滑らしたら、綺麗に切れていくのよ。やっぱり私が借りなくて正解だわ。切れ味が大事よね。
「こんな形かしら?」
ユリアーナが赤い刺繍糸のついた針で、手早く縫い合わせる。およその形は合っているわ!
「そうよ、これ。ここに紐をつけるの」
本当はゴムがいいけれど、ゴム紐がないのよ。型紙通りに作ったので小さいけれど、これを大きくしたらいけると思う。そう伝えたら、指で自分の顔を測量して、ぱっともう一つ作った。
エルヴィンは絵が上手だし、ユリアーナはお裁縫や刺繍が得意よ。ユリアンだって音楽の才能があった。同じ兄弟姉妹なのに、私はどれも中途半端な気がするわ。まあ、お料理ができるから気にしないけれど。コンプレックスに悩むほど、時間が余っていないの。
「ここの角度が……もう少し」
「そうね、布に皺が寄ってしまうわ」
二人で夢中になって試作していたら、ローズが目を覚ました。
「う……おか、しゃ?」
「起きたのね、ローズ。おはよう。気持ち悪くない?」
「ん……」
イヤイヤ期は終わりかしら? それとも、ぐずるほど体調が良くないのかも。ぱちぱちと大きな目を瞬いたローズは「にぃに……」と呟いた。起きてすぐレオンを探すの? これは立派なブラコンの出来上がりね。
「レオンはヘンリ……お父様と一緒よ」
わかりやすいよう、ローズ目線で人物を説明する。ヘンリック様と言われても、ローズは頭の中で変換しないでしょう。普段から「お父様」ですもの。私だって、お父様を「カール様」と表現されたら、少し考えてしまうわ。
子どもが生まれると、夫婦の名前呼びが「お父さん、お母さん」に代わるのは、前世でもあった話ね。子どもが外で遊ぶ年齢になると、今度は「誰それちゃんのお母さん」になるのよ。
「おと、しゃま?」
「ええ、一緒に別のお部屋にいるわ。後で会いに来てもらいましょうね」
ここでようやく、私の顔についている布マスクを凝視したローズが、周囲を見回す。覗き込んでいるユリアーナもマスクをして、顔が半分見えなかった。
う……うわぁああああぁん。泣き出したローズに焦って、抱き寄せようとしたら全力で拒まれた。両手を突っ張って、凄い勢いで首を横に振る。さっきまで会話をしていたのに……そう思って、ユリアーナと首を傾げる。
「こりぇ……やあああ!」
近づけた顔のマスクを掴んで、ぐいと外された。顔が見えなくて怖かったのかしら? でも困ったわね。治ったと判断できるまで、侍女も含めて全員がマスクで対応なのに。




