880.鼻が高い弊害
翌朝まで、ローズはすやすやと眠り続けた。顔色が良くなったし、呼吸も落ち着いている。吐き気が治まったので、ゆっくり休めたみたいね。小さな体は体力の消耗が激しいから、何日も熱が続いたら危険だった。ほっとしながら、カーテンを開いた。
朝日が差し込んだ部屋では、途中で力尽きたユリアーナが伏している。刺繍枠をちゃんと自分で横に置いて、倒れるようにベッドに上体を倒したの。手を貸さなくても、安全に眠った妹の金髪がキラキラと光を弾いた。
「う……ん、まぶし……」
ぼそぼそと声を出しながら顔の向きを変える。まだ眠り足りないのでしょう。私はユリアーナのお陰で、短い時間にしっかり睡眠が取れたわ。徹夜明けみたいな、ちょっと高揚した感じなの。眠さは感じなかった。
手伝っていた侍女も、こくりと頭が動く。転寝しているのなら、無理に起こさない。今日は休みにしてあげて、ベッドで休ませないと大変ね。
「立体マスクが懐かしいわ」
大急ぎで用意してもらったので、長方形のガーゼの四隅に紐を縫い付けただけ。ぺたんと顔に張り付く。さらにいけないのが、この世界の人って……鼻が高いのよ。日本人みたいに平たい顔ではないから、余計に息苦しく感じた。
「こんな形だったかしらね」
部屋の壁に押し付けるように置かれた、ライティングビューローを開いた。目の前の板を手前に倒せば、机になる。奥は数冊の本や書類が置ける小さな棚になっており、引き出しにペンとインク、便箋が用意されていた。
最低限客間は短期滞在用なので、立派な執務机や書類棚は必要ない。折り畳みタイプの机セットで用は足りる。椅子は引っ張り出すタイプで、化粧台の椅子に似ていた。背もたれが凄く低くて、押し込むとライティングビューローの下に入る仕組みなの。
ドレスやワンピースの女性なら、こちらの椅子は楽でいいわ。寝着の裾を捌いて腰かけ、便箋に絵を描いた。うーん、線ががたがたでわかりにくいかも。少し悩んでハサミを探す。さすがに常備しておく文房具ではなかった。
「あっ!」
立ち上がってユリアーナの近くへ向かう。確か刺繍糸を切るハサミがあったはず……。借りようと手に取って、しばらく眺めて返した。ダメね、あれは布専用だわ。もし紙を切ったら切れ味が落ちてしまう。丁寧に油を差し、手入れがされたハサミを台無しにするのは嫌だもの。
「そうだわ」
思い付きで手で便箋を千切っていく。確かこんな形だった。あら、こっちが少し小さいわ。なら反対側を……ああ、破り過ぎたかもしれない。当初の想定より小さくなったけれど、立体マスクの形に近い紙が出来上がった。
「これを元に立体のマスクを作ってもらいましょう」
少し改良すればいい感じよ、たぶん……。鼻が高い分、もう少し角度があっても。余計なことをして、さらに小さくなったわ。




