878.弟妹の成長に肩の力が抜ける
エルヴィンと私でローズの世話をする。もちろん侍女達も交代でつくが、目を覚ました時に家族が見えたほうがいいでしょう? だから手を握って様子を見守った。
小さな体で嘔吐や熱と戦う娘の姿に、不安と心配が胸を占める。それでも大丈夫だと思うのは……かすかな記憶の影響かしらね。このくらいなら平気、すぐに元気になる。記憶の中の私がそう言っていた。きっと経験に基づいた勘よ。
何度かタオルを交換した額ではなく、頬に手を当てて熱を確かめる。かなり下がった気がするわ。
「顔色が良くなってきた」
ほっとした顔でエルヴィンが呟く。真っ赤だった頬が、ほんのりと赤みを帯びたいつもの色に近かった。すでに夜中なのか、屋敷内は静かだった。窓の外には、真っ暗な林が見えるだけ。だから時間帯がわからない。
「お姉様……ローズちゃん、どう?」
身支度を整えたユリアーナが顔を覗かせた。ノックして返事をしたらすぐ、細く扉を開いて確認してくる。
「落ち着いてきたところよ、マスクをしてね」
入る前に予防措置を、とお願いする。小さな猫の刺繍が入った可愛いマスクをして、ユリアーナが入室した。交代で休むようエルヴィンに伝える。
「でも姉上も休まれたほうが……」
「私はもう大人でしょ? だから成長に影響しないけれど……エルは身長もまだ伸びる時期よ。しっかり睡眠を取って頂戴。とても助かったわ、ありがとう」
高身長に憧れるエルヴィンは、はにかんだような笑みで頷いた。隣の部屋で休むよう伝える。侍従達も休んでいるのよ。もう一つ先の部屋は侍女達が交代で使っている。
ディの熱が下がったばかりで、今度はローズよ。幼子はよく体調を崩すとはいえ、立て続けだった。両方に人手が割かれて、イルゼも差配が大変でしょうね。どちらもマスクを支給して、嘔吐した場合は服やシーツ類を破棄するよう命じた。
もったいないと考えて、洗ったシーツを外へ持ち出したりしたら……外へ病が伝染する可能性があるわ。危険を冒す者も悪いけれど、上司がきちんと命じていたら起きない事件も多々ある。この世界なら、なおさらね。
新品に近いシーツがもったいないのは私も同じだけれど、誰かの命と秤に掛けられない。ベルントが指揮を執って、侍従達が燃やしていた。洗う手間も不要だし、衛生的にはこれでいいと思う。
ユリアーナはローズの顔色を確かめ、頬に手の甲を当てて熱を確かめる。その手順が私そっくりで……ふっと肩の力が抜けた。私一人が頑張らなくても、やり方を覚えた妹は立派に役割を果たす。成長が形になって見えて、ほっとしたのね。眠くなってきたわ。




