874.わかるけど我慢は嫌なの
食後に、レオンへきちんと説明した。たとえ幼くても、レオンはこのケンプフェルト公爵家の跡取りよ。家族として聞く権利があるわ。小さな子は大人が思うより、ずっと賢い。言われた内容をきちんと噛み砕いて理解し、自分の気持ちを伝えるのだから。
「ローズが具合悪いの。まだ治らないのよ。だから、今夜は私もローズと一緒のお部屋にいるわ」
「僕も!」
「レオンにうつったら、私もローズも悲しいわ」
唇を尖らせて考えている。ヘンリック様は口を挟まず、ただ静かに見守っていた。
「お母様、だけ?」
「エルヴィンも一緒ね」
「じゃあ、僕も」
エルヴィンが一緒なら、僕も一緒でいいでしょ? 子どもの理論はわかりやすく、ある意味真理をついている。確かにそう感じるでしょう。エルヴィンと自分、何が違うの? その疑問に丁寧に返した。
「エルヴィンは病気に勝つ力があるの。以前に同じような病気に罹っているわ。でもレオンはそうじゃないでしょう? うつってしまうのよ」
「ダメ?」
「ええ。心配で私……お母様が泣いてしまうわ」
レオンに伝わるよう、かみ砕いて何度も話す。少しして、残念そうにしながら頷いた。頭では理解したけれど、感情は違うのね。泣き出しそうな顔でヘンリック様に抱き着いた。膝に頭を擦り付けるようにして、僕は拗ねてるぞ! とアピールする。
黒髪をくしゃりと撫でて「ローズが治ったら、一緒に温室でお茶をしましょうね」と約束を一つ。小さく頭が揺れるけれど、私を振り返らない。それが答えね。抱き着いて「僕も」と言いたくなるから、我慢している。
気持ちとしては好きにさせてあげたい。我慢を覚えるにはよい機会だわ。私も簡単に妥協しない、病気に関することだもの。深呼吸して気持ちを切り替え、ヘンリック様へ声をかけた。
「ではお願いしますね」
「ああ、任せろ」
同じ食卓についたお父様やユリアンにも、同様の挨拶をして立ち上がる。ユリアーナは仮眠を取っていた。この後、私の手伝いで夜中に合流する予定なの。早めに夕食を食べて、今はぐっすり眠っている頃ね。
「あ、あのね! ろじぃ、いたいたい?」
「少しお熱があるの。でも痛くないと思うわ」
ヘンリック様のズボンに顔を押し付けたまま、レオンはこちらを見ない。足早に部屋を出て、エルヴィンと交代しなくちゃ。夕飯を食べてもらわないといけないわ。隔離の意味もあって遠い部屋にしたけれど、こうして移動するときは大変ね。
病室とした客間が近づくと、使用人が慌ただしく行き来していた。ローズが吐くたびに、寝着とリネンが交換される。その手伝いだけでも有難いわ。感謝を告げて病室に入った。良く寝ているローズを確認してほっとする。
「エルヴィン、食事をして休んで。夜中にユリアーナが手伝ってくれるわ」
「わかりました。隣の部屋を使います」
あら、このまま交代要員として控えるつもりなの? 頼りがいのある弟で嬉しいわ。




