873.看病の合間のレオン補充
ヘンリック様に指摘されて、バルシュミューデ公爵家でのお茶会も思い出した。もう一週間ほどしかない。明日まで様子を見て、ローズの体調が改善しなければ……お茶会の辞退も検討しないといけないわ。
「そうだな、バルシュミューデ公爵家に病を持ち込んだら、大騒ぎになる」
三つの公爵家はそれぞれに役目がある。内政を担当するケンプフェルト家を筆頭に、軍事に影響力の強いバルシュミューデ家、社交や外交に長けたリースフェルト家と続く。どの家が感染しても大騒ぎになるわ。
「リアのお陰で、我が家は抑えられているが……他家も同様とは限らない。明後日の朝に判断し、ダメなら早めに断ろう」
「はい、そうします」
冷静な判断をしている姿は、大人の雰囲気が漂う。さきほども私だけが照れて赤くなって、おたおたしてしまった。もう少ししっかりしないと、ヘンリック様に呆れられちゃうわ。
「今夜はローズについてやってくれ。夕食後から、レオンは俺が面倒を見よう」
「お任せします」
以前なら心配が先に立ったけれど、今のヘンリック様は安心できる。きちんとレオンの希望を聞いて動いてくれるし、レオンも懐いていた。
夕食までは私も一緒にいてほしい。そんなヘンリック様の希望は、レオンも同じでしょうね。あの子には今日一日、寂しい思いをさせちゃったわ。一緒に迎えに行くと、レオンが飛びついてきた。抱っこしていた人形を放り出し、私のスカートをきゅっと握る。
「ごめんなさいね、レオン。ローズの看病をしていたの。夜も看病があるから、ご飯は一緒に食べましょうね」
具合が悪いのはローズのせいではないし、寂しかったレオンに「我慢しなさい」とは言いたくない。だって、その言葉はずっと心に残ってしまうから。大人の投げた小さな一言を、大きくなっても覚えている子は多いわ。
悪いのは誰でもない。そう伝えて待つ。レオンは自分の中で言葉を呑み込み、ゆっくりと消化してから顔を上げた。
「うん、平気」
「ありがとう、でも……今日は私が寂しいの。レオンと遊べなかったでしょう? だから、我が儘を言うわ」
こてりと首を傾げたレオンを抱き上げ、食堂の椅子に座る。普段は子ども用に座面を高くした椅子を使うレオンを、膝に乗せた。この家に来たばかりの頃と同じね。
「僕、もうおっきいよ?」
「私が乗せたいの。レオンが嫌だと言っても、我が儘だから乗せたままよ」
大きな紫の目が見開かれ、零れ落ちそう。きらきらと感情を映す万華鏡のように輝き、はにかんだ感じで口元を手で覆った。やや傾けた首と上目遣いの視線、可愛すぎて我慢できない。頬を摺り寄せて愛情を伝えながら、久しぶりに「あーん」で食事をした。
たまには、こういうスキンシップもいいわね。あと数年したら、膝に乗らなくなるでしょうから。




