729.オイゲンからの返信は上出来ね
フランクに事情を説明し、私が認めた手紙を確認してもらった。相手を責める言葉は並べない。ユリアーナが悲しんでいることと事情を聞きたい旨だけ、淡々と記した。フランクの確認を経て、封蝋を施す。迷ったのは、ここにケンプフェルト公爵家の印を押すことだった。
「問題ないかしら? 威圧的に感じるかもしれないわ」
「奥様はケンプフェルト公爵夫人でいらっしゃいます。シュミット伯爵家の印を使うことは、身分詐称となります」
指摘されて、確かにと頷いた。お父様やエルヴィンが使う分には構わないけれど、嫁いだ私が実家の印を使うのはおかしいわ。わざわざお父様を呼び出してまで押すほどの状況でもない。これが婚約の解消に繋がるなら、改めてお父様に同席を願えばいいのだけど。
おそらく、誤解と偶然ではないかと思うの。オイゲンは真面目な子よ。もし気持ちが誰かに移れば、正直に伝えるでしょう。陰でこそこそと会う真似はしない。少なくとも、私が知っているオイゲンならやらないわ。
明日、会えるといいわね。少しでも早く誤解が解けることを祈っているわ。ユリアーナの泣く姿は胸に詰まって、苦しくなるから。伝令に手紙を渡して、フランク経由でユリアーナの明日の授業をキャンセルした。先生には深い事情を伝える必要がないので、個人的な予定と伝える。
猫に相手をしてもらいに行った子供達は、お昼寝の時間になるまで戻ってこなかった。猫が見えるガラス越しに、昼食も床で食べたと聞く。叱る私がいないから、自由にしたのね? 悪い子達だこと。ふふっと笑ってしまう。
「どうなさいました?」
イルゼの不思議そうな顔に、子供達の話を聞いていた私が首を横に振る。
「悪い子の行動なのに、きちんとガラス越しで過ごしたり……お昼寝の伝言には従ったり。可愛いでしょう?」
「……立場上、返答を差し控えさせていただきます」
本心では同意するのね。イルゼも意味ありげに口角を上げて笑顔を見せるから、互いに頷き合った。様子を見に行けば、きちんとお昼寝をしている。ラルフが中心で、両側にローズとレオン? ずいぶんと羨ましい状況ね。
まだ眠っている間に、ディに会いに行った。抱き上げると重く感じて、日々育っている実感が湧く。貴族夫人は子育てを乳母と侍女に任せるらしい。でも、たまに抱き上げて確認したほうがいいわ。毎日重くなる赤ちゃんの感触も、私を見て笑ってくれる笑顔も、すべてが宝物だから。
見過ごすなんてもったいない。ふくふくで、ぱんぱんの二の腕とか。揉んだら吸い付く肌に魅了されてしまうわ。頬を摺り寄せてあやした。レオン達が起きたら、ディと過ごす時間を作ろうかしら? きっとお互いにいい思い出になりそう。
翌朝、起きたら返信が届いていた。今日、午前中にお伺いしますと書かれた文字が震えている。これはハンナ様ではなく、オイゲンね。言い訳を書いてこないのは、直接説明したいから。誤解を生む手紙での言い訳を避けた手腕は、社交家のハンナ様の影響でしょう。
今日も忙しくなるわ。




