728.時間が経つと憶測が育つわ
最後まで急かさず聞くのは、正直、骨が折れるの。だって気になるから「続きは? それで?」と聞きたくなるでしょう? それに「本当はこうだったかも」と口を出したくなる。それを全部呑み込んで、頷くだけに徹した。
オイゲンは頭一つほど小柄な女の子と手を繋いで歩いていた。話しかけて横を向いた顔は間違いなくオイゲンで、別人ではなかったみたい。女の子はドレスと同じ生地の帽子を被っており、髪は結わずに流していたように思う。その理由が、柔らかそうな薄茶の髪が背中で揺れていたそうよ。
ここまでで整理すると、母君のハンナ様と間違えた可能性は消える。身長差はほぼなかったし、髪を結わないはずがないもの。貴族夫人は基本的に結っている人が多くて、ハンナ様も同じだった。ならば妹君? となるけれど、残念ながらオイゲンは末っ子だったわね。
姪を想定するには、兄君との年齢が近すぎる。あとは幼馴染みか、従妹かしら? ハンナ様か侯爵様に弟妹がいて、その方のお子様なら考えられるけれど。
「……好きな子、できたなら……言ってくれたら」
「そう思うのなら、オイゲンを呼びましょう。明日がいいわね」
「え?」
驚いて顔を上げたユリアーナの目元が腫れている。赤くなった眦に手を添えて、優しく撫でた。ぴりりと痛むのか、目を閉じる。
「ユリアーナ、恐れていてもオイゲンの気持ちはわからないわ。時間が経てば憶測が育ってしまう。だから早く会うの。私が呼ぶから、会う支度だけ整えて頂戴」
口を開きかけて、ユリアーナは俯いた。きゅっと唇が尖る。何か言いたくて呑み込んだ様子に、私は予想を並べた。
「彼が来ないかも? 嘘をつくかもしれない? その恐れを振り払うために、直接話すのよ。どうしても無理なら隣の部屋で聞いていてもいいわ」
その場合は私が代わりに話す。そう告げて、髪の上にキスをした。怖い夢を見て泣いた、幼い弟妹を落ち着かせるために唇を寄せる。思い出したのか、ユリアーナの表情が和らいだ。
「さあ、今夜は鳥のローストよ。顔を洗って、冷たいタオルで冷やせば間に合うわ」
午後いっぱい、アンネと一緒に冷やしたら腫れも引くでしょう。小さく頷いたのを確認し、私はアンネを呼んだ。廊下で待機していたアンネは不安そうに顔を見せ、赤くなったユリアーナの目元や鼻に息を呑む。
「すぐにタオルと冷水をご用意します!」
どたばたと消えたアンネは、扉を閉め忘れている。イルゼが見ていたら、叱られてしまうわね。そう口にしたら、ユリアーナが小さく笑った。それでいいわ、私の大切な妹だもの。いつも笑顔でいてね。オイゲンが本当に悪さをしていたら、私が叩きのめしてあげるから。




