724.もう芽が出ているの?
散歩に出発してすぐ、追いかけてきた侍従から手紙を受け取る。差出人はユリアンだった。あの子ったら、また名前を省略して……。何度言い聞かせても、直らないんだから。
開封して中に目を通す。数歩前を歩くレオンがちらりと振り返った。ラルフに促され、また前を向いて歩きだす。並んで歩く二人の間にローズが挟まった形よ。少し音の外れたローズの歌が響く。この子、音痴なのかしら? それとも子守唄を歌った人がズレていた?
再び手紙に視線を落とす。書かれていたのは、数か月先までの予定だった。頭のほうに、春祭りの予定が追加されている。参加できそうね。
離れに到着するので、手紙を畳んでポケットに入れた。そうそう、貴族の服は基本的にポケットがないと思っていたの。そうしたら、夫人や令嬢のロングワンピースには大きなポケットが二つ、隠しポケットが一つあるのが一般的だったわ。
逆に平民の服のほうがポケットが少ないのよ? というのも、布をたっぷり使ったワンピースはパニエなどで膨らませている。その隙間にポケットが存在する形だった。物を入れてもパニエが支えてくれるし、挟んで形を誤魔化してくれるのよ。
スカートの前後を合わせる縫い目に沿って、綺麗にポケットが忍ばせてある。平民はエプロンのポケットのように、太ももの位置で表に縫い付けてあるの。何か物を入れたら膨らんでしまう。
左のポケットに入れた手紙をぽんと叩いて、位置を確かめた。大丈夫そうね。あとでユリアーナにも読ませてあげないと。
「お母様、めぇ!」
レオンが羊のような声で呼ぶので、くすくす笑いながら隣に腰を落とす。ぺたんと座らず、腰を浮かせたまま覗いた。指さす先に、芽が出ている。
「これは……何かしら?」
同行したリリーも首を傾げる。貴族令嬢だった彼女も、当然ながら家庭菜園の経験はない。ラルフが気づいて声を上げた。
「これ、人参です」
「よく知っているのね」
驚いた私に、照れたような顔で小さな棒を指さした。
「ここに書いてあったので」
「あら本当。全然気づかなかったわ、ありがとう」
ティムかハンスが用意したの? でも二人とも文字は書けなかったと思うけれど。
「あの……僕がティムさんの指示で書きました」
水やり用のジョウロを運んだ侍従が、そっと名乗り出た。彼によれば、札はティムのアイディアだったみたい。文字が書ける侍従に依頼し、品名を書いた札を作った。それを指示通りに差したと聞いて、感心する。
知能の高い低いは、文字が書けるかどうかではないの。こういった知恵を活かせるかどうかよ。気遣いも素晴らしいわ。礼を言って、微笑む。札の位置を頼りに水を与えた。まだ芽吹いていない種が流れないよう、量に注意して掛けていく。
ローズは自分もやりたがり、バケツの水を手で掬って掛け始めた。ほとんどの水が袖とスカートに吸い込まれたのは、ご愛敬ね。




