720.観葉植物を枯らすタイプ
「奥様は、妙なことをお考えになるんですなぁ」
驚いた顔をしてハンスが大きな声を出す。温室で作業していると聞いて出向いたのよ。腕まくりして作業する二人は、腕だけでなく頬や首筋にも泥がついていた。たぶん汗をかいて擦ったのね。
「おい、言葉を選べ。すんません……初めてでも育ちやすい苗、っすか」
ティムとハンスの親子は、やっぱり敬語が苦手ね。これは私も腹が立たないからいいの。ただ、言葉を知らないだけだから、敬意は感じるわ。外のお貴族様だと怒り出す方もおられるかしら? 普段は貴族と接しない職種だから、使わない言葉なんて覚えないでしょう。
同行したイルゼが器用に片方の眉尻を上げるけれど、首を横に振ってやめてもらう。叱られたら、次から私達に話をしてくれなくなるわ。知らない言葉は使えない。覚える必要も機会もなかった。大人になって叱られながら覚えさせても、きっと身に付かないわ。
植物に関する知識と、その手に刻まれた技術が大事なの。野菜の皮むきをする下男や洗濯を担当する下女でも同じよ。貴族に接しない仕事なら、本人が知っている限りの敬意を示してくれたらいい。
もしお客様に触れる機会があって失礼を働いたなら、それは女主人の失態よ。そんな場所に、相応しくない者を配置した私が悪い、それが責任者だと思う。
「ええ、綺麗な花が咲いたり、美味しい実が収穫出来たり。そんな苗がいいわ」
「えっとぉ、育てんのは貴族様で?」
「そうね。貴族家の夫人や子女になるわ」
肯定すると、うーんと悩み始めた。私は前世で観葉植物を全滅させるタイプだったの。育てるのが上手な友人の部屋から、丈夫だと太鼓判を押された植物を持ち帰り……十日ほどで枯れてしまった。水と肥料の上げすぎだったのよね。
その次のチャレンジは、クーラーの風で枯れた。懲りずに買ってきた花の鉢は、可哀想に三日で萎れる。最後に諦め半分でサボテンを買って……あら、記憶にないわ。サボテンだから、大丈夫だったと思うけれど。さすがに、サボテンは貴族家に差し入れできないわね。
ここでは庭師が仕事をしてくれるから、とても助かっている。実は貧乏伯爵家時代の家庭菜園は、エルヴィンの管理だったの。あの子が育てるとトマトも赤くて甘いし、茄子も大量に取れたわ。物語で読む「緑の手」は彼のことね。
「ありゃどうだ?」
「肥料が難しいだろ。こっちは?」
「水切れが命取りだぞ」
ひそひそと相談し、ティムがくるりとこちらを向いた。
「花は咲かねえんすが、簡単に収穫できる野菜は……ありやす」
「ただ、お貴族様向きじゃねえんで」
二人が言い淀むのを聞き出した結果、懐かしい響きが耳に届く。『はつか大根』あれって、簡単な植物なの? ティムによれば「飽きる前に結果のできる野菜」というカテゴリーみたいね。




