719.春祭りを忘れるところだったわ
以前に話した春祭りの予定が決まったと通知を受けて、日程に驚く。お茶会の翌日なのよ。ユリアンも誘う予定だから、早く連絡しなくちゃ! ばたばたしていて、届いた手紙を私が確認しなかったの。招待状を書き終えて、机の端にある書類箱に入っている手紙を見つけた時は……心臓が止まるかと思ったわ。
これがマルレーネ様からの手紙だったら、お詫びのしようがないもの。ほかのご夫人でも同じ、誰でも返事が来ないと不安になる。そんな状況にならなくて、安堵の息が漏れた。
「次からは必ず毎日確認するわ」
朝起きたときか、寝る前か。どちらかに統一して習慣にしないとダメね。
「春祭り、皆も楽しみにしていたから」
参加中止はあり得ない。毎年決まった日ではなく、種まきの時期や気候によって開催日が左右されるらしい。今年は寒さが引かなかったから、例年より三日遅れだった。
「ユリアンに手紙を出して、それから……ヘンリック様の休日も確認しておきましょう」
ヘンリック様は事前に分かれば、ある程度合わせられる。以前にそう聞いたので、さほど心配はなかった。マルレーネ様達も参加したいと仰るかしら? だったら、我が家に一泊していただいて出かけるのもいいわね。
この点はフランクとイルゼに許可をもらいましょう。準備をするのは使用人で、私じゃないから。迷惑になるなら、それぞれ翌日の合流で構わなかった。シュミット伯爵領のお祭りみたいに、何か目玉があってもいいわね。
同じ音楽会では芸がないかも。種まき体験はさせていただくとして……ほかにも何かあれば楽しめる。春……前世では子供達が一斉にアサガオを育てるのよね。何か小さな実がなる野菜の苗を持ち帰るのは、どうかしら?
屋敷で毎日水をやり、育てるのよ。苗が弱れば庭師に理由を尋ねて、元気にする方法を教わる。それもまた素敵……いえ、ここは貴族社会だったわ。簡単に庭師から教育を受けるのは、あれこれ言われそう。
他人に、自分の知らないことを教わる。とても素敵な経験だと思うのだけれど。
帰宅したヘンリック様と食事を終えて、寝室へ引き上げたところで相談してみた。貴族が使用人や平民に教えを乞うのは問題? その質問に、彼は目をぱちりと瞬いて考え込んだ。やっぱり難しいのかも。
「そんな事例は知らないが、構わないんじゃないか? 詳細で専門的な知識を得たいと思うなら、相手の地位は関係ないだろう。教えを乞う側が頼むべきだ」
外交や内政で意見を交わす文官の中には、下位貴族だけでなく平民もいる。そう言い切ったヘンリック様に背中を押され、私は苗木のお土産計画を立てた。明日、フランクやティムにプレゼンよ!




