718.貴族なので無理なこともある
子供用に、工作などの際に着用する服を提案した。袖部分をリボンで絞り、少しだけ短めにする。猫の世話の際にも便利だと思うの。提案が針子に伝えられ、用意してもらえることになった。ただ、この件でフランクから注意されてしまう。
「奥様、その作業用の服は……当然ですが、勉強や菜園の作業のみでお願いします。お茶会での着用は以ての外です」
公爵家嫡男が、平民の服に似たみすぼらしい格好では示しがつかない。使用人達にも侮られるし、貴族としての面目が保たれない、と。注意された内容は納得できるものだったので、作業時以外の着用はしない約束をした。
料理を教える時と家庭菜園の作業の時は許可が出た。猫の世話に関しては、慣れているので今のままで問題なさそう。
考えた服の実用性と、貴族の面子の話。相対する考えよね。いくら便利でも、平民の服で登城は出来ない。貴族夫人としての常識が乏しい私でも、そのくらいは理解できた。
ふと思い出したのは、以前にエプロンを提案した時のこと。あれは巻きスカートという名称にして、華やかな絹の大判スカーフを使うことで誤魔化した。そういった工夫がなければ、貴族が身に着けて普段使いするのは難しいのね。
今回は巻きスカート風エプロンでシャツの前を覆うことで、子供達の汚れを受け止める方向で確定した。フランクやイルゼが問題ないと判断するなら、平気ね。すでに招待状は封をしてしまったので、伝令に口頭での追加をお願いした。
伝令は宛先を読むため、貴族の出身者が主流だった。そのため、巻きスカートを子供の分もお願いしますと書いて渡せば、彼らが伝えてくれる。侯爵以上の家ばかりだから、複数枚の巻きスカートを持っているはず。私も数枚用意してもらった。誰かが忘れたら、これを使ってもらえばいいわ。
「お母様、お水あげに行く」
私の部屋へ飛び込んできたレオンは、家庭菜園の苗に夢中だ。葉っぱが増えたこと、横から新しい芽が出たことを教えてくれる。子供の観察力は凄いわ。せっかくだから、絵日記にして残したらどうかしら? 私も描いておきたいわ。
提案したら紙やペンは用意されたけれど、複雑そうな表情のフランクが同行を申し出た。彼が本邸を出ることは珍しいの。ローズは小さな籠に水の入った袋を入れた。重いのに「んしょ!」と持ち上げる。それを見て、レオンが手伝おうとした。
だからレオンが持つ予定だった水袋は、私が持つわね。フランクが代わろうとするけれど、年上の人に重い物を持たせるのは気が引けた。すぐだからと誤魔化して、レオン達と外へ出る。ローズの手を握ったレオンは、お兄ちゃんらしく「ゆっくり」と指示を出した。振り返ったローズが頷く。
曇り空はまだ雨が降りそうになくて、ただただ蒸していた。これ、水のやりすぎで根腐れしないわよね? 湿気の多さに悩みながら、家庭菜園となった離れの庭へ向かった。




