714.ラルフの意思で決めた
ローズの未来の義母がユーリア様なら安心だわ。幼い頃から一緒に見守っていただけるんですもの。将来「こんな娘だと思わなかった」が発生しないでしょう?
「……誰にもやらん」
「あなた、落ち着いて」
ヘンリック様の膝にぽんと手を置く。見ていたローズが目を輝かせた。椅子から降りようとして、ユリアーナに捕まる。
「ダメよ、大人のお話でしょう? 待っていてね」
言い聞かせるユリアーナを見つめ、こちらを見て……ローズは唇を尖らせた。この子のイヤイヤ期は、たぶん同年代の子供より穏やかだわ。いけないを理解している。前世と違うのは、貴族令嬢として育ったことくらい。他の貴族家のイヤイヤ期の話を聞いてみたいわ。
ご自分で育てて苦労なさった方がいたかしら? ルイーゼ様は我が儘だっただけで、イヤイヤ期とは違う気がするし。
「ラルフ、あなたはこの家に残りたい? それとも実家に戻りたい?」
どちらでもいいと伝え、返答を待つ。きょとんとした顔でラルフは首を傾げた。
「俺はレオンの側近になるんです。だから帰らないですよ?」
心底不思議そうに返ってきた答えに、こちらが苦笑してしまう。当たり前のようにラルフは未来を決めていた。自ら選んだ道と胸を張って、堂々と返してくる。ならば大人にできることは限られるわね。受け止めて、支えるだけ。
「わかったわ。ロルフ様とユーリア様もそれでよろしくて?」
「そのつもりですわ」
「もちろんだとも」
二人の賛同が得られて、正直、胸を撫で下ろす。もしラルフが帰る話になったら、レオンが気に病みそうだから。自分を嫌いになったのかも、僕が悪かったのかも。そんなふうに考えたら可哀想だわ。
ケンプフェルト公爵家で暮らすなら、ラルフには制約を課しましょう。
「ケンプフェルト公爵家で生活するにあたり、決め事があるの。今後は夜の読書は禁止、日記も寝る前ではなく朝早く起きて書くのよ。できるかしら?」
夜に寝ないと育たない。昼間にぼうっとして鍛錬に参加したら、ケガをするわ。最低限の約束として二つを口にした。ラルフはすぐに同意し、滞在は延長となる。いえ、家族だもの。滞在ではないわね。
「ユーリア様、先ほどはおケガをなさいませんでした?」
躓いたことを口に出すのはどうかと思ったが、ケガをしているなら医師に見せたほうがいいと考えた。するとユーリア様は頬を赤くして「あれは、その……」と俯く。ケガはなさそうだけれど、どうしたのかしらね。
「ほら、だから言ったんだよ。実は……」
ロルフ様が語ったのは、ドレスの下に部屋着が隠れていること。急いで駆け付けようと準備する妻に、きちんと忠告したのに無視された事実。部屋着の裾が長く、上からコルセットを締めてドレスで押されて踏んでしまったこと。
「まあ! それだけラルフのことが心配でしたのね」
ふふっと笑ってフォローしておいた。だって私もやりそうな失敗ですもの。




