713.外堀から固める方針みたい
こほんとわざとらしい咳をして、ユーリア様が体勢を立て直した。裾を摘まんで歩き出す。これなら踏む心配はなさそう。ベッドサイドに用意した長椅子に腰かけ、隣にロルフ様が座った。中央寄りに腰かけたユーリア様に遠慮したのか、少し窮屈そうだわ。
ヘンリック様と私が向かい側、窓を背にして奥に座った。斜め後ろに用意した長椅子へユリアーナが控え、レオンとローズも大人しく長椅子の前で待つ。ユリアーナと侍女リリーに抱き上げられ、妹の両側に二人が落ち着いた。
「このたびは申し訳ない。こちらの管理不足だ」
ヘンリック様が口火を切る。正式に預かった立場としては、お子様の不調はこちらの失態よ。病ならある程度仕方ない部分がある。子供はどこからか病を拾ってくる生き物だから。でも今回は、疲労が原因だった。まだ七歳の子が疲労で倒れるなんて……申し訳ないわ。
ヘンリック様の隣で頭を下げる。
「ラルフ、疲れでよかったわ。何をそんなに頑張ったの?」
謝罪に「どうか深刻にならず……」と答えるロルフ様を置いて、ユーリア様は息子に語り掛けた。尋ねる響きに、ラルフがにこりと笑う。
「レオンと仲良くなりました! 一緒に鍛錬ごっこをしたり、お勉強をしたり。毎日が楽しくて、実は日記を始めたんです。お母さまにもらった日記帳にあれこれ書いていたら、寝る時間が短くなって……」
そういえば、ラルフはお昼寝の時間にいつもぐっすり。夜にちゃんと眠れていなかったのね? 気づかなくて申し訳ないわ。侍女が交代で様子を見に行くのだけれど、その時間は寝たふりでやり過ごしたのかしら?
病室の巡回と同じで、時間がわかっていれば対策しやすい。今後は時間を不規則にしましょう。
「あと、本をたくさん読めるようになりました!」
嬉しそうに報告しているけれど、自白しているわよ? 本を読んでいて、夜明けを迎えてしまったのではなくて? 文字を覚えて本が読めるようになり、嬉しくて暴走していたのね。溜め息より先に、苦笑いが浮かんだ。
「このように、息子が原因のようだ。ラルフ、心配と迷惑をかけたのだから反省しないといけないよ」
「ごめんなさい、父上」
ぺこりと頭を下げたラルフの顔色は、倒れたときより赤みがあって元気そうだった。今後のことも話し合わないといけないわ。そう思って部屋の移動をお願いしたら、意外な言葉が返ってきたの。
「ラルフはこのまま、ケンプフェルト公爵家で生活させてください。こんなに成長が目に見えるとは……正直、驚きました。レオン殿とも仲良く過ごせているようです」
ロルフ様が含みを残して、視線を向けた先はレオンのいる長椅子。いえ、違うわね……ローズ? 視線をたどったヘンリック様の表情が強張る。
「ローズは嫁に出しません」
「構いませんよ、ラルフを婿に出しますので」
あら、先手を打たれたわ。以前からローズは嫁に出さず、当家が持つ従属する爵位を与えると言っていた。そこへお婿に来てくれるなら、断りにくい。まだ十数年先の話なのに……ユーリア様と目配せし合って微笑んだ。




