712.バルシュミューデ公爵夫妻の到着
お昼を食べ終えたのを知っているように、馬車の到着連絡が入った。いつも不思議なのだけれど、入り口の門番が受け答えをする間に連絡が届く。これって誰かが全力疾走しているのかしら? 呼んでいないお客様の場合、通すかどうかを判断したフランクからの返事が必要だもの。
こそこそと玄関ホールで尋ねたら、フランクが目を丸くした。珍しいわ、こんなに表情を変えるフランクは初めてかも。
「……奥様、旗を利用しております」
各貴族家には紋章がある。もちろん王族もそうよ。その旗を振って相手を知らせる。でも最初の通知はベルらしい。門番が勢いよく紐を引くと、あちこちで滑車を通じて軽くなったベルが鳴る仕掛けだった。私がその音を聞いた記憶がないのは、使用人が仕事をする地下で鳴るからよ。
門番は紋章の旗を決められた筒に挿すの。それを見て、フランクへ連絡が入る。すぐに判断して、許可なら白、だめなら赤を振り返す。よくできている仕組みね。王宮でも同じ方法が用いられており、約束がない客人の場合は確認されるみたい。
感心している間に、バルシュミューデ公爵家の馬車が到着した。恭しく扉が開かれ、ロルフ様が先に降りる。すぐに振り返って、ユーリア様へ手を差し伸べる。ゆったりと降りたユーリア様は、出迎えた私達に一礼した。
焦っている様子がないわ。落ち着いておられると表現する場面ね。やっぱり公爵夫人とはこうあるべきなのよ。私が同じ立場で、レオンが倒れたと聞いたら……たぶん馬車から降りるときに裾を踏んで転がると思う。
「ご足労をかけてしまい、申し訳ありません。ロルフ様、ユーリア様」
どうぞと促し、ヘンリック様も挨拶を交わして歩き出した。屋敷の廊下は広いけれど、この場合は縦に連なって歩くの。先頭を家令のフランク、続いてヘンリック様、ロルフ様とユーリア様が続いて、後ろに私と子供達よ。レオンとローズは仲良く手を繋いでいるので、私はレオンと繋いだ。
さすがにラルフは部屋で待ってもらっている。病人と連絡したのに、息子が出迎えたら心配させちゃうわ。体調ではなくて、この家での扱いについて。
フランクがノックして許可を得てから、大きく扉を開いた。入室した私の目に飛び込んだのは、倒れかけたユーリア様を支えるロルフ様だった。もしかしてショックを受けている? そうよね、我が子との再会がベッドだなんて……本当に申し訳ないわ。
「ユーリア、だからこの服はやめたほうがよかったんだよ」
「わかっています!」
こてりと首を傾げた。服のことで喧嘩しているの??




