711.気を利かせたつもりで間抜けだったわ
レオンは恥ずかしいのか、ラルフのほうを見なかった。隙間からちらちら見ていたけれど、ほとんど背中を向けているわね。
「ラルフ、起きて大丈夫? 具合が悪いのだから……」
ベッドで食べてもいいと言いかけて、それなら私達が外へ行けばいいのよと思い至った。ここで食べると決めたのなら、ラルフも一緒に食卓に着く。おかしなことをしてしまったわ。言葉が途中で途切れた私に、ラルフは笑顔で言い切った。
「ここで一緒に食べます! レオンがいるから」
「ぼく?」
ラルフの言葉に被せたレオンが、ようやく振り返る。大きな紫色の瞳が零れ落ちそう。長い睫毛が瞬きでぱしぱしと揺れた。
「うん。レオンのこと大好きだもん」
崩れた言葉を選んだのは、本心だから? それとも様子のおかしいレオンを気遣ったのかも。何にしろ、聡いことが気の毒になる。きっとあれこれ気づきすぎて、気を回してしまうのね。
「ぼくも、らるふは好き」
にっこり笑うレオンが、きちんと座り直した。テーブルに向かって腰かけ直し、ラルフの前に用意された器を覗き込む。パンではなく、お粥だった。今度は柔らかく煮た鳥肉や色のある野菜が散らしてある。見た目も綺麗で、たぶんコンソメ系のスープね。とてもいい香りがした。
「ぼくも、あれ」
同じのを食べると主張する。視線で問えば、イルゼが「お任せください」と請け合った。そのタイミングで、「あたちも」とローズが主張する。でも右手にパンを掴んで、左手でフォークを握っているのだけれど……。まあいいわ、お兄ちゃんの真似をしたいのよね。
先に食べるよう促し、ラルフは素直に従った。きちんと伝えないと、先にどうぞとレオンへ譲りそうなんだもの。彼と私の「側近」に対する認識が食い違っている気がした。ラルフの献身は、同じ公爵家の令息同士というより……まるで使用人みたいだわ。
この辺の認識をすり合わせておきたい。ラルフは預かったお子様であって、レオンの大切な友人よ。幼馴染みになって、将来は親友で片腕になってほしい。でも、レオンを立てて後ろに下がるのは違うの。間違っているときは喧嘩してでも止められる、友人関係でなければ執事になってしまう。
「ヘンリック様には側近候補はいなかったのですか?」
「……どちらかと言えば、俺が先代国王の側近だったな」
参考になればと話を振ったら、なんとも反応しにくい答えが返ってきた。でもそうね、マルレーネ様もある意味補佐役だったみたいだし。先代の陛下は何も仕事をしなかったと聞くから……さもありなん、ってこの場面で使えるのかしら?
雑談が始まり、徐々に逸れて……最後には家庭菜園の芽がいつ出るか、で終わった。届いたリゾット風コンソメのお粥は美味しかったわ。朝の定番料理にしてもいいほどよ。




