710.せっかくだから皆で昼食を
ラルフが起きたのなら、私達だけ食堂で食べるのは変ね。でもまだ疲れの取れていないラルフを、食堂まで連れて行くのも違う気がして。少し考えて、指示を出した。
「手間をかけるけれど、ここで昼食にするわ」
顔を見せたイルゼが一礼して、すぐに準備が始まる。ここで「テーブルを運んで」とか「料理はこういうのをお願い」とか、口にしたら越権行為だった。侍女長であるイルゼが考えることなの。作る料理を料理長へ連絡し、侍従達を動かして食べる場所を作る。
任せるのは信頼の証、教えてもらった通りに振る舞う。ベッドサイドの椅子は二つなので、窓際にある応接セットに移動した。その間に食事用の準備が整えられていく。
重いテーブルが運び込まれ、貴族の屋敷の扉が観音開き風な理由を知った。家具の移動などで大きく開くよう、片開きの扉は使わないのね。豪勢に見えるからだと思っていたの。まあ、そちらの理由もあるかもしれないけれど。
あとは扉を大きく開いても、廊下側に張り出さないことかしら? 作業効率が高まるわ。侍女がお茶のセットを運ぶ時も、ワゴンを使う。だから大きな扉だとワゴンを避けて開く必要があって、面倒だもの。
頭の中で感心しながら、手はレオンの黒髪を撫で続ける。私にしがみついて「赤ちゃんでいい」宣言をしたレオンは、ヘンリック様が帰ってきても態度が変わらなかった。事情を説明する私の声に反応せず、がっちりと膝に手を回している。
「レオン、お膝に乗りましょうか」
「……うん」
素直に膝に座り直したレオンだけど、向かい合って座るのね。ぽんぽんと背中を叩いて落ち着かせた。ラルフが素直に甘えられるように、ユリアーナに子供達を預けたの。扱いに慣れているし、普段から一緒に暮らす姉のようなユリアーナなら、問題ないと思ったわ。
まさか、赤ちゃん返りするなんて。そういえば、ローズが生まれた時にそういった行動に出なかった。時期がずれて、今頃訪れたのかも。
「レオン」
ヘンリック様が真剣な声で呼ぶから、まさか叱るつもりでは? と慌てる。ところが彼は笑みを浮かべて、首を横に振った。背を向けているレオンには見えない。
「羨ましいことをしている、あとで代わってくれ」
「やだ」
一言で即答? ふふっと笑ったら、くっついているレオンが見上げてくる。揺れで気づかれちゃったみたい。
「私はまだまだお姉様の領域には届かないわ」
ぼやくユリアーナが、レオン達の様子を教えてくれた。扉ばかり気にして、二人ともそわそわしていたんですって。
「準備が整いました」
イルゼの促しで立ち上がり、後ろに用意された昼食の席に着く。私達が雑談している間に着替えたラルフは、私の隣に座ってもらう。お膝の上にはレオン……移動の際に抱えるのは少し……いえ、かなり重くなってきたわ。




