708.繋いだ手は離さないわ
熱を出して寝込むほど疲れたラルフは、そのままお昼近くまで目覚めなかった。途中で彼の手が緩んだけれど、絡めて繋いだ左手を預けておく。目が覚めた時に解いていたら、悲しくなるでしょう? 病の時は気が弱る。だから何でもないことが、胸に突き刺さるのよ。
彼が手を繋ぐことを望んだのなら、目覚めるまで変えない。額の上から落ちた手を握り続けた。侍従に絞ってもらい、何度かタオルを交換して首を冷やす。これで熱が落ち着けばいいけれど。
ノックの音がして、イルゼが入室する
「もうすぐお昼の準備ができます。こちらへお運びしますか?」
「そうして頂戴」
気の利くイルゼの申し出に、頷いて小声で返答した。
「バルシュミューデ公爵家から、公爵夫人の訪問許可を頂きたいと連絡がございました」
「もちろん、問題ないわ」
「はい、そう仰ると思いましたので返信済みです」
フランクも同様に判断したのね。ユーリア様が来られるなら、反対側にも椅子を用意しておきましょうか。侍従にお願いして手配する間に、イルゼが新しい情報を追加した。
「返信後、改めてご連絡がありました。公爵閣下も訪問なさるそうです」
「素敵ね、ご両親の顔を見たらほっとするわ」
公爵閣下の訪問……もしかしたら、ヘンリック様も帰ってくるかもしれないわ。イルゼに予想を伝えると、苦笑いされた。フランクも同様の意見だったんですって。ヘンリック様が王宮でバルシュミューデ公爵に伝えて、そこから公爵邸へ連絡が入ったと思うの。
公爵夫妻でおいでになるなら、ヘンリック様が大人しく仕事をしているわけないわ。絶対に帰ってくると確信があった。
あの人、以前はまったく帰ってこないで仕事漬けだったのが噓のよう。仕事を分散して減らし、新しい国王になられたカールハインツ様もきちんと処理している。だから書類の量が激減したと聞いた。それにしても、自由に休めるのは素敵ね。部下の方々も休暇を取りやすいでしょう。
かつてはブラック企業のようだった働き方が変わり、文官の奥様やお子様も喜んでいるはずよ。
「……ん……」
もぞもぞとラルフが寝返りを打ち、こちらに顔を向けて横向きになる。それでも起きた様子はなかった。人の声に反応したのかしら? しばらく声をひそめて、指示を出した。お茶の準備はイルゼ、お迎えの手配はフランク、私は顔を合わせてからの対応ね。
まず、預かったラルフが寝込んだ状況を詫びましょう。それから今後の予定や実家に帰る頻度を増やす話をして……。やっぱりヘンリック様もご一緒のほうがいい。レオン達にも話しておいたほうが……。
まだ繋いだままの手を見る。私の左手を胸元に抱き込んだ状態で、すやすやと寝息を立てていた。いつもより幼く見える。いえ、まだ幼いと表現しても構わない年齢だった。優秀だからと負担をかけすぎてしまったわ。
眉尻を下げて大きく息を吐く。それから顔を近づけて、額に唇を触れた。




