688.猫達のマイペースはいつも通り
「あっ、もう……暴れないで」
どうやらミアが暴れて、引っ張ったのが原因らしい。降ろされたミアが、ぱっと走って離れる。手が届かない距離で、触られた部分を毛繕いし始めた。
あれって、やられた人間側から見ると……なんていうか失礼よね? 助けてあげたのに、ばい菌扱いされた気分になるわ。まあ可愛いから許すけれど。可愛いだけでやっぱり失礼だけれどね。
「しろぉ!」
両手を広げて呼ぶレオンに気づいて、慌てる。まさかだけれど、シロが飛び降りたら転ぶわ。お尻じゃなくて後頭部を打ったら事件よ。それに猫は爪があるから!! 走って駆け寄ろうとしたが、横を走るティムが先に到着した。
大人が手を伸ばしても届かない距離で、シロが「みぎゃぁ!」と必死の助けを呼ぶ。そんなに怖いなら、どうして登るのよ! そう叫びたい気持ちで見上げる先、ティムはさっさと梯子を用意した。まさか登って捕まえるの?
「ティム、危ないわ」
「ご安心くだせぇ、慣れておりますでな」
にっこり笑い、やや訛った言葉が返ってくる。笑顔で梯子の位置を調整し、離れてしまった。
「えっと……」
「猫ってのは、勝手におりてきやすぜ」
子猫なら無理なこともあるが、成長した猫なら問題ない。ティムのたどたどしい敬語での説明によれば、登れるなら下りられるそうで。登れない高さからは飛び降りられないとか。実際、何度か温室で同じ状態になったシロとミアだが、梯子や飛び降りで対処してきたらしい。
「なにより、本当に危険なら親が飛んできやす」
ティムが言い切って視線を向ける先で、母猫アイがちらりと視線を寄越す。堂々と背中に日を浴び、やや太った体を温めていた。焦った様子はまったくない。
「……それもそうね」
一番納得できてしまった。飛び降りられる高さかどうかは個体差がある。その心配も、母猫アイの落ち着きで吹き飛んだ。危なければ、アイが助けに行こうとするでしょう。
「ではシロは放っておいて、畑の相談をしましょうね」
まだ心配そうなレオンは猫を見守ると言い出し、ラルフが付き添うことになった。ローズは興味がそれたのか、ミアを抱っこしようと手を伸ばして叩かれている。きちんと爪を出さないのが偉いわ。たぶん、猫達にしたらローズは末っ子なのよ。
移動用の赤ちゃんベッドとして、楕円形の籠が重宝している。籐で編んだ籠は底部分が丸く、置いて揺らすのにぴったりなの。寝ているディの籠を覗いたサビーネが、ふんふんと匂っている。赤ちゃんはミルクの甘い香りがするから?
「あら……やっぱり写真が欲しいわ」
思わず言葉が漏れてしまったのは、サビーネが籠に入り込んで一緒に寝ようとしたからよ。ディを抱きしめるような態勢で、みっちり籠に詰まって。猫鍋みたいで可愛い。




