687.猫達の冒険でひと騒動
苗や種はすぐに準備できるらしい。というのも、公爵邸の緊急時の食料として、野菜を育てているからよ。畜産も同様に行われており、騎士の馬を預かるのと一緒に牛や羊も飼われていた。
貴族の広大な敷地は、一つの村と同じ。以前にそんなことを感じたけれど、実際にそうだった。野菜や肉、乳製品などを敷地内でも育てる理由は……緊急時の対策よ。以前のシュミット伯爵家は別邸に住んでいたから、本邸ならば庭や牧場があるわ。小さくても必須なの。
国の施策として推奨されており、過去の災害からの教訓だと聞いたわ。ケンプフェルト公爵家は領地にある屋敷は別邸扱いになっている。そのため、王都にある本邸周辺に牧場や畑があるの。麦が波を打って揺れる秋は、驚いたわね。
「畑のほうに迷惑が掛からないようにお願いね」
「はい、奥様」
庭師のトレードマークである麦わら帽子をもじもじと弄りながら、ティムが答える。先に球根は移動してもらうよう頼み、肥料も任せた。どうしても有機肥料は臭う。それも含めて体験させたいけれど、初回から臭いのを体験させると嫌がりそう。
堆肥を土に混ぜる作業は、ティム達にお任せね。来年はチャレンジできるよう、見学はさせたい。今後の手順を相談していると、少し離れた場所でユリアーナが声を上げた。
「お姉様、シロが大変!」
「どう大変なの?」
誰かに爪でも立てたかしら? 先ほどから足元を走り回る猫達にちょっかいを出して、誰かが引っかかれたのかと考えた。よくあることだから……と近づいたら、確かに……その、大変なことになっている。
見上げた先にあるのは、バナナに似た南国の木だった。温室だから育てられる植物で、ヤシなどと同じタイプよ。下に枝がなくて真っすぐ、上にばさっと葉が広がる。バナナは木というより、巨大な草の塊らしい。幹ではなく葉っぱの芯? みたいな。
それと似たタイプで、中央に赤い房の花が咲く植物が植わっていた。珍しさと華やかさ、花粉の回収が楽な植物だと聞いている。夏に花が咲くため、まだ中央部分も葉っぱが丸まった棒状で止まっていた。ほぼ頂上に近い位置に、白猫がいるの。
姉妹の中で一番やんちゃな白猫シロは、困惑した様子で下を見ている。猫なのだから飛び降りたら……と思うけれど、見栄え重視で下のほうに葉っぱが残されていた。たぶん、地面が見えなくて距離が測れないのね。
下で爪を立ててよじ登ろうと試みるのは、サビ猫のサビーネだ。ただ、運動神経がやや残念なサビーネは上手に登れなかった。お陰で取り残されている。中央あたりで立ち往生したのが、三毛のミアだった。こちらはユリアーナが背伸びして回収中だ。
「ユリアーナ、袖が危ないわ」
気を付けてと付け加える前に、びりっと嫌な音がした。やっぱり……と肩を落とす。以前なら自分で繕うユリアーナだけど、公爵邸には専門の針子がいる。彼女達に仕事を作ったと思えば、いいことをしたのかしら?




