686.庭師のティムは靴を脱いだ
庭師の代表として、おじいさんが一人参加してくれた。ほかの庭師にも仕事があるから、全員集合する必要はないもの。それにたぶん……緊張してしまうのでは? 若い子が余計な発言をして罰せられないよう、老齢の庭師が駆け付けたのだろう。
子供達だけなら、笑顔で薔薇の棘を落として渡す人達だ。ヘンリック様や私がいるし、使用人の監督役であるフランクとイルゼも同席している。きょろきょろしながら部屋に入って……?!
「……どうして、靴を……その」
脱いでいるのかしら?? 疑問で首を傾げて問う私に、彼ははっとした顔で説明した。ぎこちない敬語は構わないけれど……靴で泥を持ち込むから? だから玄関ホールの外に靴を脱いできたと。
「これは私が悪かったわ。ここへ呼ぶのではなく、私達が温室へ足を運ぶべきだった」
簡単にごめんなさいを使うと、使用人は恐縮してしまう。少し表現を変えて、彼に寄り添う言葉を探した。
「温室で話しましょう。ソファーベッドがあるんだもの」
「ねこ!」
レオンが目を輝かせるから、連れてきていいと許可を出した。温室の中を走り回るのが好きな三匹の子と、のんびり昼寝をする母猫。天気が良く温室の使用予定が入っていなければ、猫達は使用人に運ばれて楽しんでいる。
よく温室で寛ぐ猫の姿を見るレオンは、大喜びで走っていった。ラルフがさっと後を追い、ローズはきょとんとしている。ユリアーナに手を伸ばし、抱っこを強請った。重いのに、ユリアーナは抱き上げて歩き始める。
ヘンリック様を促して、庭師のおじいさんにも温室へ向かうよう伝えた。確かティムだったかしら? 間違えると失礼なので、念のためにフランクに確認した。以前お世話になった庭師はハンスだった気がする。彼の父親位の年齢だと思ったら、本当に父親だった。
温室の中で、野菜の相談をした。ティムは野菜の特徴をかいつまんで伝える。レオンがよく温室へ来るから、子供に理解しやすいよう説明するのが上手になったみたい。簡単な味の説明に、私が料理の名前を足した。
トマトはサラダが多いけれど、鶏肉のソースにも使っているわ。そんな感じである程度聞いた後、何を育てるか尋ねる。ここで個性が出た。
「ぼく、ぜんぶ」
欲張りなレオンに対し「豆はちょっと」と苦手な野菜を除こうとするラルフ。ローズはレオンの真似で「じぇんぶ」と叫んだ。ヘンリック様は芋に興味津々だった。芋ほりも楽しそうだけれど、トマトやナスが家庭菜園の定番よね。
ここでヘンリック様が時間切れ、王宮から出仕の要請が到着した。渋々馬車に乗り込むヘンリック様とほっとした顔のベルントを見送る。
「用意できる野菜を植えましょう! あれもこれも、試してみたらいいわ」
植える場所のアドバイスを聞きながら、離れの庭は家庭菜園として活用される見込みとなった。なお、公爵家の敷地内にはきちんとした畑が別にある……という。そっちは専門家に任せるわ。




