655.レオンも重くなったわ
貴族の教養や基本的なお勉強は、ニコルに任せられそう。私が教えるのは、生きていくための心構えかしら? 没落する心配はしないけれど、何かあった時に諦めないこと。人との関わり方、立場といった学びは親の役割だと思うわ。
あとでヘンリック様に相談して、ニコルを正式な先生としてお招きしたいと伝えましょう。こういった小さな連絡や報告が途絶えると、人の関係はぎくしゃくするもの。ニコルは実家の紋章が入った馬車で帰っていった。
午後の日差しは厚い雲に遮られ、見上げる感じでは天気が崩れそう。残念だけれど、温室でのお昼寝は諦めましょう。もし雨が降ったら、温室では音がうるさくて眠れないわ。ガラスだから濡れないと安心して、失敗した苦い経験がよぎった。眠りかけたところで降り出し、激しい雨音に驚いたのよ。
「お母様、おひるね……」
一緒がいい。そう訴える言葉が途切れて、少し遠慮がちだった。このところ、ローズが急に「イヤイヤ」を始めた影響かも。自分まで我が儘を言ったら、困らせると思ったのね。優しいいい子なのよ。でも、親相手に遠慮なんて寂しい。
「レオン、お昼寝……どうしたい?」
裾がつくのも気にせず、床にしゃがんだ。椅子に座ったレオンに視線を合わせるため、スカートの裾がふわりと広がる。その動きに視線を向けたあと、レオンはもじもじと手を動かした。自分で言わなければ、誰にも伝わらない。
察しているのに言わせるのは可哀想だけれど、伝え方を覚えないと困るのはレオン自身よ。私ならある程度察して動いてあげられる。でもこれが別の貴族の子だったら? 将来の部下なら? 言わずに伝わるのは珍しいことなの。ラルフが察してくれるからと甘えたら、何も言えなくなってしまう。
じっと待つ私に視線を戻し、レオンはへにゃりと笑った。
「僕とらるふ、お母様……ろじぃも一緒、いい?」
「ええ、もちろんよ。私も誘ってくれるのね。ありがとう」
きちんと話してくれたお礼も兼ねて、微笑んで手を広げた。遠慮せず、勢いよく来なさい! 周囲をきょろきょろして、ローズやラルフが見ていないと判断して飛び込んだ。レオンをぎゅっと抱きしめて、気合いで立ち上がる。
抱いたまま移動するには、重くなってきたわ。成長の証なのに、ちょっと悲しい。ぱたぱたと腕を叩くレオンに首を傾げると、耳のそばで「ろじぃ、みてる」と告げられた。振り返るとローズがじっと見つめている。羨ましいのかしら?
「どうしたの、ローズ。抱っこする?」
聞いてから「あっ、失敗した」と思う。予想通り「いやぁあああ!」と大声で叫ばれてしまった。




