656.お昼寝前に興奮したら……こうなるわよね
自分で嫌と叫んだ手前、やっぱり抱っこは言い出せない。難しい状況にしてしまったわ。何かに気を取られていると、もう片方が抜けてしまう。疎かにしたつもりはなくても、子供は敏感だもの。
「お母様、おりる」
もう抱っこされたい年齢じゃないのかしら? しょんぼりしながらレオンを下ろすと、距離を詰めたローズへ駆け寄った。そのまま止まらずに抱きしめる。驚いて涙も声も止まったローズの金髪を撫でて、手を繋いだ。
「おひるね」
「え、ええ」
驚きすぎて、言葉に詰まった。駆け寄ったラルフもローズと手を繋ぎ、三人で歩いていく。後ろをついて歩く私が、なんだか置いて行かれそうよ。お昼寝で使うのは私室の二つ隣にある部屋だった。夕日が差し込まない東向きの窓が気に入っている。
主寝室並みの大きなベッドを用意したの。これは仕掛けがあって、公爵家の下男に注文した簀の子のベッドだった。子供が自分で上り下りできるよう、低いベッドが欲しかったの。でも市販品で、貴族用はすべて大人サイズだった。
そのためベッドマットのサイズを測り、同じ幅と長さで簀の子を注文した。その上へ大きなマットを置いたので、レオンなら自力で上り下りできる高さだった。
ちなみに、貴族家のお子様達がどうしているのかと思ったら……小さな階段を用意するらしい。踏み台と呼びたくなる、三段くらいのやつよ。木製だったり布張りだったり、種類はいくつかあるみたい。
これを見たときの感想は「ペット用品で見たことあるわ」だった。シニアの犬猫用だったかしら? 子猫や子犬にも使うと書いてあったし、足の短い種も使うと思うけれど。子供用と言われれば、そうねと頷く仕上がりの製品だった。
「きょーしょーだ!」
レオンが手を離して走っていく。競争? ラルフはわざと出遅れた。ローズが手を離さないからよ。一緒に走ったローズは、端にあるクッションを踏み台代わりに飛びついた。足がじたばたしているのを、ラルフが押し上げる。その間にベッドへ乗ったレオンが、上からローズを引っ張った。
「がんばれ!」
「あとちょっと!」
兄達の声掛けに、ローズが仰け反った。そのまま横に転がって、何とかベッドに乗る。微笑んで近づき、上手に出来たと褒めながら靴を脱がせた。この部屋は絨毯で遊ぶことはないから、他の部屋と同じで靴を履いたまま入室する。
レオンは飛び乗る前に靴を脱いでいたし、ラルフはいつの間にか靴を揃えていた。
「さあ、お昼寝よ。絵本を読むわ」
今日の絵本はウサギが主人公だった。他のウサギは茶色くて、夏の茂みに隠れても目立たない。でも一匹だけ白いウサギがいたの。彼女だけ隠れても見えてしまう。大きな獣に襲われそうになったり、逃げる仲間の中で一匹だけ狙われたり。大変な思いをした白ウサギは、冬まで無事に逃げ切った。
ページをめくれば、一面の雪化粧。そのページの中に白ウサギがいるらしい。小さな字で「探してみましょう」と書かれていた。三人で覗き込み、指を差したのはレオンだ。ローズはその場所を食い入るように見つめたけれど、わからないみたい。個性が出るわね。
物語のラストは、雪で白くなった風景に溶け込んだウサギ達だった。仲間が冬毛の白に代わり、一匹の白ウサギは目立たなくなった。きっと描かれなかった春には、皆と同じ茶色の毛皮を手に入れるでしょう。そう締め括った。物語はハッピーエンドではなくちゃね!
レオンは笑顔で大喜びして拍手し、ローズは真っ赤になって興奮している。絵本で騒いだら眠れないんじゃないかしら? 心配だわ。寝かしつけの絵本選びに失敗したみたい。




