649.温室でじゃれ合う休日
ラルフが「シロなら捕まえられる」と請け合ったので、任せて扉を開けた。その言葉を聞いて「僕がミア、捕まえる」とレオンが息巻く。ちらりと後ろを確認し、同行した侍従に目配せした。猫達がすり抜けたらお願いね。
ガラス扉を開いた途端、待ってましたと二匹が飛び出す。でも走り去ろうとしたのはシロだけ。ミアは手を広げたレオンに頬を寄せ、ごろごろ喉を鳴らす。単に、いつも撫でてくれる人が来たから寄ってきたのかしら? ミアを抱っこしたレオンが得意げに「ほら」と見せた。
うちに来たばかりの頃は、レオンでもしっかり持ち上げられた子猫ミア。今ではアイを抱き上げたみたいに、ベロンと伸びている。満面の笑みのレオンを褒めて、足がついているのに大人しいミアも撫でた。レオンと私が温室に入れば、ミアも素直についてくる。
逃げたシロは、後ろのラルフに尻尾を握られて「みぎゃああ!」と叫んだ。その声に、母猫アイが駆け寄り……手前で止まる。シロが悪いと思っているみたい。助けに入ることはなく、ラルフと侍従が温室へ戻したシロの首を噛んでいた。
母猫にとっては、いつまでも手のかかる子猫よね。微笑ましい気分で見守り、温室のソファーベッドで眠るローズに近づく。気づいたヘンリック様が顔を上げた。これまたレオンに匹敵する笑顔で、私達を迎える。ソファーベッドの端に腰掛けた。
「オイゲンには事情を伝えて見送ったわ。近々、この温室でお茶会をしようと思うの」
「予定が決まったら教えてくれ」
もちろんと頷いた私の横を、這い這いしたレオンが通り過ぎる。ちゃんと靴を脱いでいるのは偉いわ。続いてラルフも同じように這って進んだ。横向きで丸くなって眠るローズを守るように、背中側にラルフが寝そべった。目が覚めたら見える正面で、レオンが転がる。
まぁあ! 可愛いわ。写真にして残し、いつも眺めていたい。この世界に写真がないのは、本当に残念だわ。映像の魔法があったら、絶対に習得するのに……それもないのよね。目に焼き付けようと見つめたら、ヘンリック様に転がされた。
肩に手をかけて、ごろんと……本当に転がった私は視界の変化に目を丸くする。覆い被さる形で両脇に手をついたヘンリック様が、少しだけ唇を尖らせた。僅かな変化で見落としそう。でも未来のレオンを見るようで可愛い。
「ヘンリック様?」
「いや、俺を見てほしかっただけだ」
口調がぶっきらぼうな感じで、さらに可愛く思える。でも私より一回り年上に失礼よね。だから「嬉しいです」と穏やかに返した。
「僕も!」
這って近づいたレオンが飛びつき、甘い雰囲気は消えていく。ヘンリック様も苦笑いしながらレオンを抱き上げ、ぺたんと座った。身を起こした私は手櫛で髪を直しながら、くすくすと肩を震わせる。
温室は暖かいから、ユリアーナも誘うべきだったかしら? でも部屋に戻りたがっていたから、何かお見舞いを貰ったのね。邪魔をしないでおきましょう。




