648.小さな騎士様のエスコート
「オイゲン!」
見つけたレオンが叫んだ。人差し指を包む形で押さえて、人を指さしてはダメと教える。頷いたレオンは手のひらを上にして、オイゲンがいると伝え直してきた。ふふっ、なんだか「こちらです」って感じね。黒髪を撫でて、玄関ホールへ入った。
「お久しぶりです。公爵夫人、レオン様、バルシュミューデ公爵令息」
ラルフが「名前で」と伝えたため、挨拶が交わされた。互いを知っていても、そこまで親しく会話する関係ではない。公式と建前と……貴族はそういう面倒さがあるわ。互いの呼び方で距離感や付き合いを確認するのは、大変だけれど……必要に迫られた結果でしょうね。
「アナ、元気になった?」
「ええ、ありがとう。レオン」
レオンがとてとて歩いて、ユリアーナの腹に抱き着く。まだ身長差のあるお子様だし、教育が始まっていないから咎めない。でも礼儀作法の勉強が始まったら、人前では禁止ね。特に婚約者であるオイゲンの前ではダメよ。私の妹と息子であっても、血の繋がりがないんだもの。醜聞になってしまう。
複雑に編んでいないけれど、清潔感のあるまとめ髪。香油を使ったのか、ほんのりとラベンダーが漂ってくる。ワンピースはシンプルで上質なものを……うん、侍女達がいい仕事をしているわ。病気明けなのに着飾っていたらおかしいもの。
「お見舞いありがとう、ユリアーナも嬉しそう。レオンがどうしても会いたいと言い出したのよ」
レオンは慌ててユリアーナから離れ、今度はオイゲンへ突進した。私の言葉で目的を思い出したみたい。数日会えなかったユリアーナがいたから、つい向かったのよね。微笑ましい気分で見守る。
レオンは途中でラルフの手を掴み、一緒にオイゲンへダイブした。支える彼がにやりと笑う。二人一緒に抱えて……さすがに持ち上がらないわね。鍛え始めたんだと言いながら、先にレオンを抱き上げた。きゃっきゃとはしゃぐレオンを下ろし、ラルフも……。
「立派になったわ。ハンナ様にもよろしく伝えてね。お茶会を予定しているの」
オイゲンに伝言を頼む。一時期は拗れた母親との関係を再構築したオイゲンは、了承を口にした。貴族の通う学院で騎士になる勉強と同時に、領地経営の補佐ができるよう頑張っている。近状を話してくれたオイゲンに「頑張ってね」と微笑んだ。
お昼寝のローズに付き添っているため、ヘンリック様は顔を出せない。ローズも寝ているからごめんなさいね。そんな雑談をして見送った。その間、ずっとオイゲンの服を掴んでいたレオンは、見送りになったらラルフの手を握る。
寂しがり屋で、努力家で真面目で……そんなレオンに手を差し伸べた。
「小さな騎士様、久しぶりにエスコートしていただけます?」
「うん!」
「ラルフ、私もいいかしら」
レオンが大喜びで手を取ったのを見て、ラルフにユリアーナが微笑む。三人で温室を出て、四人で戻った。ガラス扉のすぐ向こうにシロとミアがいるけれど……どうやって逃がさず扉を開けようかしらね。




