594.靴を履くのは嫌!
美味しく食事を終え、大変なことに気づいたの。子供達はこのあと少し遊んで……お昼寝をするわ。寝て起きて枕が黒かったら、色が取れたと泣かれてしまう。この世界にビニールがあれば、何とかなったけれど……。
「どうした?」
「えっと……」
私の変化に気づいたヘンリック様に近づき、肩に手を置く。レオンやローズに聞こえないよう、そっと耳打ちした。懸念を伝えて、どうしましょうと首を傾げる。なぜか鼻を手で押さえて「わざとか?」と聞かれたけれど、何の話かしらね。
貴族は白いタオル、白いシーツ、白い枕が当たり前。リネン系はすべて白で統一されてきた。というのも、真っ白を保つのは大変なの。染まってしまったら、漂白剤は手に入らない。地道に石鹸で洗って色を薄くするのよ。色が完全に落ちなければ、使用人へ下げ渡されたり加工されたりする。
突然、枕が黒くなったら違和感があるわ。他の方法を考えないと……唸る私の前を猫が一匹横切った。あれは料理人の飼っている猫だったわね。アイによく似た三毛猫で、人懐こい子よ。他にも飼っている使用人がいたけれど、模様が違うの。
基本は部屋で飼うほうがいいけれど、この世界は事故に遭う危険は少ない。馬車は大きな音がして、逃げる余裕もあるから。でも広大な庭で何かに襲われる可能性もあった。この点は周知したけれど、元が半分野良の生活をしていたから、猫が自由に出てきてしまうのよ。
「にゃ! にゃー」
喜んだローズが立ち上がり、裸足のまま追いかけた。追いかけるために立ち上がり、置いたままの靴を掴む。その間に、元気よく走るローズが転んだ。子供らしく手をつかずに、顔から豪快に転がったの。追った侍女が間に合わず、申し訳なさそうに膝をついた。
抱き起されたローズは、きょとんとしている。何が起きたかわかっていないようで、泣かなかった。大きな目が零れ落ちそうなほど見開かれ、大きく息を吸う。
「すごいな、ローズは大人なんだね」
私より早く、ランドルフが声を上げた。
「おとにゃ?」
「立派な淑女だ」
大好きな兄も頷くので、ローズは嬉しそうに笑った。興奮した様子で立ち上がり、こちらに戻って来る。侍女のエプロンに黒いシミがついたけれど、あれは落ちるかしら。抱き起こした侍女にお礼を告げて、手にした靴を揺らした。
「ローズ、靴を履いて頂戴」
「やっ!」
ある意味、予想通りというか。芝を踏みしめて逃げ始めた。お昼寝の前に捕まえないとダメだわ。靴を履いたレオンがランドルフと手を繋ぎ、走ってローズを回収した。真ん中にローズを入れて、手を繋ぎ直す。
まさか?
三人は満面の笑みで逃げ始めた。追う侍従を、ヘンリック様が呼び戻す。
「危険がなければ、好きにさせてやってくれ」
「……仕方ないわ。お昼寝まで遊ばせてあげましょう」
ヘンリック様に続いて私も譲ったことで、手を緩めた侍従や侍女の間を三人は抜けていく。元気いっぱい、健康なのが何よりだけれど……やっぱり靴は履いてほしかったわ。足の裏は寝ている間に拭くしかなさそうね。
********************
宣伝です!
めりぃくりすまーす° ✧ (*´ `*) ✧ °
『魔王様、溺愛しすぎです!』https://ncode.syosetu.com/n7454fj/
コミカライズ決定です! 詳細は許可が出てから改めて発表しますので、しばらくお待ちください(*´꒳`*)




